シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない


次の日は、朝からワイドショーで明人のことが流れていた。明人はSNSで何を呟いたかチェックする。
『好きな人とずっと一緒にいたいので、応援よろしくね』だけだった。軽すぎる。
でも、ファンはかなり返信をしてくれていた。
『応援するよー』とか『スキャンダルが無かった明人さんの初スキャンダルおめでとう』とか。皆さん祝福してくれているのだと思うと心が温かくなった。
その夜はさすがに騒ぎになるので会いには来なかったけど、電話はくれた。声を聞くだけで安心する。
「二、三日すれば収まるさ」と言っていた明人。そして、最後には「好きだよ、芽衣子」と言ってくれた。

会社に行く時にマンションを出てみたが、パパラッチはいなくて安心した。私は一般人ということもあり大騒ぎにはならなかったのかな。
事務所に行くと雰囲気が違った。皆が私と明人の交際の秘密を知ってしまったからだ。
「おはようございます」
明るい声で入った。
「体調不良など色々とご迷惑おかけしました」
皆さんは「いえいえ」と言って温かく迎えてくれた。挨拶を終えると私は社長室に挨拶に向かった。

社長室に入り椅子に座るように促されたが、私は深く頭を下げた。
「大事なアーティストに手を出して申し訳ありませんでした」
「頭を上げて」
社長の声に頭をそっと上げる。表情を確認するけれど穏やかな顔をしていた。
「よく五年も黙って耐えたわね」
「いえいえ……」
「芽衣子さんなら、大事な明人をお願いできると思えたわ」
社長の言葉に涙を流しそうになった。そして、泣かないように堪えて頭を深く下げる。
「本当にありがとうございます」
「マイペースな彼だけど、よろしくお願いしますね」
「はい」
その後、部署へ戻って仕事をする。
数日休んでしまったせいで間隔を取り戻すのに苦労してしまった。
でも、皆さんにフォローしてもらえてなんとか、終えることが出来た。


今日は二人で映画を観にきた。
「芽衣子と映画なんて新鮮だね」
キャップに眼鏡をしているせいか、周りには気がつかれていないようだ。
「うん」
映画が始まると、明人は手をつないできた。
普通のカップルで普通のことだけど、私にとってはすごく貴重なこと。
普通のことをしたいと五年の間、想い続けたのだから……。
肩を並べて一緒に過ごせる時間を大切にしたいと思う。
スキャンダルはそんなに大きな話にならず、平和な日々になった。前以上に明人の愛を感じて幸せに暮らせていると思う。
今、こうして穏やかに過ごせるのは色んな人の協力があったからに違いない。
しっかりと感謝したいと思う。
そして、明人を大事にしていこうと誓った。変わらない愛を注ぎ続けたい。


             【スピンオフ】黒柳明人、芽衣子編 終わり
< 237 / 291 >

この作品をシェア

pagetop