シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

丸くて可愛らしい字で綴られていた。
小学生の女の子からファンレターをもらったのは、初めてだった。
小さな体で頑張ってるんだな……。鼻がツーンとしながら、病で母親を亡くしたことと重ねていた。
俺……全然、親孝行出来なかったなと反省しつつ、封筒を見ると、もう一通手紙が入っていた。
『赤坂様
久実の母親です。久実は心臓病を患ってしまい現在治療しております。いつも泣いてばかりだった久実が赤坂さんを知ってから笑顔を見せるようになりました。母親として笑顔を見れるようになったことが心から嬉しいです。本当にありがとうございます。お身体に気をつけて、ますますご活躍されますよう祈っております』
封筒の中にはツインテールの女の子の写真が入っていた。大きめな目に長い睫毛の女の子は、にっこり笑っている。しかし、顔色はあまり良くなかった。
ただ、写真からは必死で生きていることが伝わってくる。
自分が誰かの生きる励みになっているなんて、思わなかった。
ただ有名になりたい気持ちだけで突っ走っていた俺。久実の姿は俺の人生観を変えたかも知れない。手紙を読み終えた俺は、涙を流していた。

俺と久実は、こうして出会った。
俺が十八歳。久実が十二歳。
もちろん初めから恋愛感情があったわけじゃない。
ただのファンとして、妹のような存在として……大事に思っていた。
初めて会いに行ったのをきっかけに、俺は久実と何度も会い、本当の友人だと思っている。
俺も久実もそれぞれが恋愛をし、生活をし、生きてきた。
久実は入退院を繰り返し、病と戦っていたし、俺はスキャンダルを起こしたりして、その度に久実は励ましてくれたんだ。

30歳になった俺は……もう、久実なしでは生きられない。
俺は久実のために働いて、頑張っている。

24歳になった久実は、今でも俺のことを一人の芸能人として見ているのだろうか。
ツインテールだった久実は、今じゃさらさらのボブ。メイクもするしいい香りもする。
細かった体の線も女性らしくなった。

俺は久実をファンとしてではなく、妹みたいな存在としてではなく、一人の女性として愛している。
久実は昨日、移植するためにアメリカへと旅だった。
撮影現場に向かうため車移動をしている俺は、空を見ていた。
早く――同じ空の下で空気を吸いたい。
きっと、もう一度……。
久実に会えるよな?


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