シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

久実ちゃんが中学2年生になる春から、俺はドラマの主演をすることになった。オーディションを受けて勝ち取った大きな仕事。
冬から撮影をしていて、そろそろ放送される予定だ。
番組宣伝で忙しく過ごさせてもらっている。
しかしそんな中、久実ちゃんのお母さんからメールが届いた。体調が思わしくなく再び入院することになってしまったのだ。ショックだった。
撮影現場で知ってしまいテンションが落ちてしまう。……しかし、仕事を頑張らなければ。
ドラマはあともう少しで撮り終える。それまでは撮影が深夜になったりしてお見舞いに行けないだろう……。
俺様役でラブストーリーということもあり、女性ファンが一気に増えた。街でも声をかけられるようになり、違う世界に来たみたいだ。本当は歌って踊りたいところだが、今は与えられたことを一生懸命やる。
自分の世界が変わってきた時に、久実ちゃんが入院してしまったのが残念でならなかった。

4月に入り……お昼の情報番組で番組宣伝を終えてお見舞いに行くと、ベッドに横になっている久実ちゃんがいた。げっそりと痩せてしまって顔色も悪く目に光が灯っていなかった。お母さんはパートに出ることになり平日は夕方じゃないと来れないようだった。
「久実ちゃん……」
「赤坂さん。わざわざ来なくていいよ。最近、テレビにいっぱい出てるから毎日会っている気がするから、寂しくないし」
力なくニコッと笑った。起き上がろうとした久実ちゃんを寝かせた。
「無理すんな。寝ろ。強制」
「はい」
枕元にはクラスメイトからの寄せ書きが置かれている。『元気になりますように』とあった。明るい性格だから、きっと皆にも好かれているのだろう。
「どんどん有名になっていくから励みになってるの。ドラマも楽しいよ。あの俺様キャラ……赤坂さんそのままだし」
俺に気を使って話をしてくれる。
あまり長くいると逆に疲れさせてしまうのではないか。
そんな気もしたが次はいつ来てやれるかわからない。もう少しいてやりたかった。
「ガキは寝てる時間だろうが。テレビなんて見ないで寝ろって」
ぷくっと頬を膨らませる。
「お母さんが録画してくれてるの。パソコンで見てる。……けど、こっそり夜中も見てる。一人部屋だし。部屋が空いたら移動しなきゃ駄目なんだけどね」
ふふって笑った久実ちゃん。
元気になってほしい。いっぱい走らせてあげたい。
俺は切実に思っていた。
「欲しい物あるか? 俺、最近、稼いでるからなんでも言って」
「最終回の台本かな」
「えっ?」
答えに困って動揺する俺を見て、くすっと笑った久実ちゃん。ガキのくせにからかうなんて生意気だ。
「誰と結ばれるのか毎回ドキドキしてるの。赤坂さんのキスシーンとか照れるよ」
「お前にはまだ早いんじゃない? おこちゃまなんだから」
「キスくらい……中学生でもするよ。同級生でも彼氏いる子いっぱいいるよ」
「ませてんなー」
俺は久実ちゃんとの語らいが楽しい。最近は仕事が忙しくて神経もピリピリしていた。ストレスが溜まっていて発散できなかったし、笑うこともあまりなかった。
久実ちゃんは、6歳も年下なのに話が合う。
久実ちゃんはそこら辺の子よりも辛い思いをしてるから大人なのかもしれない。
「じゃあ、また来るから」
「うん。無理して来なくていいからね」
「は? 無理してないし。俺が久実ちゃんに会いたいだけだから」
「ありがとう。頑張るから」
手を振って病室を出ると、ナースが俺を見ていた。軽く頭を下げて歩いて行く。
恋愛感情とは違うが俺は久実ちゃんのことが大好きになっていた。


ドラマは視聴率がすごく良くて、俺の知名度もCOLORの存在を一気に知られるようになった。どんどんオファーがきて、事務所は嬉しい悲鳴を上げていた。
11月には新曲も発表することになり、COLORは多忙な毎日を送っている。
久実ちゃんを忘れたわけじゃないが、前みたく頻繁には会えなくなっていた。
ただ、退院して元気にやっているようだから……安心していた。


< 245 / 291 >

この作品をシェア

pagetop