シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

俺は「ああ」と言って目を閉じた。体力的な問題よりも精神的に持たない気がする。癒してくれる彼女がいればいいのだが、残念ながらいない。たまに会って体の関係がある子はいるが、恋愛感情はないのだ。お互いに会ってスッキリさせるだけの関係。
こんなんでいいのかな……俺。本気で人を愛せる時は来るのだろうか。
テレビ局について楽屋に案内される時、俺は梨紗子を見かけた。あいつはまだそこそこ売れているようだが、今のCOLORの勢いには勝てないだろう。
今日はVTRを観てコメントする番組だったが、梨紗子も一緒だった。俺はずっと引きずっていたけれど、意外と平気だった。
仕事を終えたのは22時過ぎていて、もう腹も減っていたから早く帰ろうとした時、ノックが鳴った。立ち上がってドアを開くと梨紗子が立っている。
「久しぶり」
「…………なに」
「挨拶に来たの。またお仕事で一緒になるかもしれないでしょ」
過去にあったことは棚に上げてこんな態度を取れるなんて恐ろしい。俺は顔がひきつってしまう。
「ああ、よろしくお願いします」
すると、梨紗子は俺の胸を押して楽屋に入ってきた。
「冷たいね。成人」
「…………あのさ、そういうの迷惑なんだけど」
ぷくっと頬を膨らませる。こいつはこうやって芸能界で生き残ってきたのだろう。
「仕事ではこちらもお世話になるかもしれない。その時はお手柔らかに」
見下ろしながら言うと、梨紗子はくすっと笑う。
「オーラ、すごいね。成人。きっともっと売れるね。その時は暴露しちゃうかな」
「恐ろしい女だな。可愛い顔して」
「最高の褒め言葉ありがとう。じゃあ、また」
梨紗子が出て行くとマネージャーが戻ってきた。怪しげな目で見られている。
「………挨拶に来たんだっつーの。あんな性格悪い女、願い下げだ」
「お願いだから、問題を起こさないでくださいよ」
「わかってる」
今日は家でビールでも飲みたい気分だ。

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