シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
「怖いのか?」
「……わかりません」
「どうする?」
聞いてくるなんて、ずるい。
紫藤さんと離れたくない。
カラオケにいたあの女性のように色っぽくなりたい。
切実に大人になりたい。
不安を押し殺しながら私は頷いた。
「俺に委ねろ。余計なことは考えるな」
すべて任せよう。どんな未来になっても後悔しない。そう思うと緊張がほぐれてきた。
まるで固く結ばれた紐が緩んでいくような。
わからないことだらけだったけど、必死だった。紫藤さんの幸せそうな顔を見ていると、胸がくすぐられるように幸せな笑みが溢れてしまう。
あぁ、私――この人のことが大好きって思った。
紫藤さんは、すごく優しかった。
今までに見たことのない表情で、まるで、愛しているよと言われているような錯覚に陥る。
やっぱり、痛い。きつくて、苦しい。でも、でも、とっても幸せ。
ポロッと涙が零れた。
わたあめの雲の上に眠っているような甘い感覚だった。
でも、どうしても、好きだという言葉を飲み込んでしまう私がいた。
自分に自信がなくて、怖かった。