シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
  *   *   *

土日に出張なので、月・火と代休をもらった。
平日の休みは新鮮で普段は見ないお昼の情報番組を見ていると、大くんがゲストとして出ていた。番組の宣伝のようだ。
結局、夜までだらだらと過ごしてしまった。
「そろそろ、準備しないとね」
ひとり暮らしにしては、大きい押し入れを開けて中に入る。
四日後に迫った撮影のため、旅行キャリーを出しているのだけど――……。
「あれ、こんな、奥にしまったっけなぁ」
旅行なんてほとんどしてないしねー。ちゃんと片付けておけば良かったわ。おいしょ。
バサバサッ。


「痛いっ」
上から落ちてきた古い本。あぁ、懐かしい。
その本をペラペラとめくっていると、メモが出てきた。

『明日から二週間ほど海外ロケが入って、会いに来れないから。いい子にして待ってろよ』

大くんの字だ……。初めてキスをされた日に泊まった時のメモ。
メモの裏には私の字で『六月二十八日』って書いてある。人生始めてのキスの日を忘れたくなかったのかもしれない。懐かしい。
あの時は、好きだって思うだけで精一杯でそれ以上のことは望んでいなかった。ただ会えればいいって思うだけだったのだ。
なのに、いつからだろう。

大くんのすべてを知りたくなって、すべてが欲しくなった。
恋に憧れて恋を知って恋の甘さに溺れて、恋の苦味を知った。
人を好きになれば、嫉妬心が湧き上がってくることもあって、綺麗なままの心では、いられない時もあった。
はじめて交わった日は、花火大会の日だった。
痛みと、快感と、好きな気持ちが入り乱れて終った後は、なんだか気まずかった。
裸になっている自分が恥ずかしくてたまらなかったけど、すぐに起き上がって着替える体力も残ってなくて。
大くんは、私を濡れたタオルで綺麗に拭いてくれたんだっけ。そして、タオルケットで体を包んでくれてこう言ったの。
「ベッドに連れて行く余裕なかった。ごめんな、はじめてがソファーって」
気だるそうに笑っていたよね。
あの頃、思いを伝えることができなくて不安だったけど、いつもそばにいることができて、幸せだったな。
スマホが鳴って現実世界に引き戻される。電話の相手は玲だった。
明日の夜、会社近くで会う約束をした。
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