シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
「熱愛報道とか出てたし、もう十年前のことだし、紫藤大樹だってもう三十でしょ。結婚を考えている人がいるかもしれないよ」
「そうかもね。そうだったら、それでいいかな。大くんが幸せだって教えてくれたらスッキリするかもしれない。よりを戻したいとか、まったく思ってないし」

大くんと会うとわかった日は落ち着かなくて、不安だった。でも、日にちがだんだんと近づいてくる中、冷静になっている自分がいる。
恋人だった日々は思い出として受け止められているのかもしれない。
そもそも、あんなにすごい地位を確立した男性が私なんか相手にしないに決まっている。
きっと、個人的に話しかけられることもなくて、そのままさようならだろう。


そして、でき上がったCMを見て、私は紫藤大樹を人としてじゃなく、商品として見ることになるのだろう。悲しいがこれが現実なのだ。

ピンチはチャンス。会うことによってきっといい未来が開かれるよ、きっと。

「美羽が幸せになるように祈るわ」
「で、玲はどうなの? より戻して一年だっけ? コーくんとはうまくいってる?」
「うん。ハタチで別れて以来だから時間を埋めていく作業は大変だったけど、今は幸せにやってるよ」
そっか。玲が幸せそうで良かったと安心して、私はカシスオレンジを飲んだ。
会えない間も過去に彷徨っているのは、きっと私だけだろう。
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