シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
結局、あまり眠れなくて早めに起きて化粧をする。
いつもより念入りにしているのは、大くんに会うからじゃなく、自分を隠したいからなのかもしれない。
何も食べないと体力的に辛いから、パンをトーストして食べた。
少し、気持ちが悪い気がする。
『はな』も連れて行く。
しおりは私のお守り代わりなのだ。
はながいれば、絶対に大丈夫。鞄の内ポケットにそっと差し込んだ。

空港で杉野マネージャーと待ち合わせた。お互いにスーツを着て落ち合う。
「おはようございます」
「おはよう。よし、行こうか」
この飛行機に乗ってしまえば、大くんに会うことになる。
閉まっていた扉が一気に開いてしまうのだ。地獄行きか。天国行きか。
付き合い始めた日の十一月三日は、果物言葉によると「相思相愛」だった。でも、その可能性は限りなくゼロに近い。
大くんには、綺麗な彼女がいるし、芸能人――それもトップスターと一般人が愛し合えるとは、思えない。
過去だったから、あんなに大事にしてくれたんだ。
滑走路を加速しながら走って行く飛行機と比例するように、私の心拍数も上がっていく。
やっぱり、会うの怖いよ。
でも、その不安を口にすることができずにじっとする。逃げることのできない空間に入ってしまったような。
「旅行だったら、良かったのになー」
杉野マネージャーがのんきに言っている。
私は愛想笑いするのが精一杯で、会話なんてできなかった。
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