シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
「よろしくお願いします。紫藤大樹です」
ゆっくりと伸びてきた手。握手を求められた。触れるなんて恐れ多くてできない。大くんは笑顔だけど、ものすごい威圧感だ。困っている私の反応を楽しんでいるのだろう。

「初瀬、紫藤さんが素敵すぎて驚いたのか?」
手を出せずにいると場の空気を和ませようと杉野マネージャーが冗談っぽく言ってくれる。
今日はスケジュールがハードだ。
ここで躊躇している場合じゃない。

決意をして大くんに手を差し出すと、大きくて綺麗な手に包まれた。懐かしい肌の感触。
(痛いっ)
びっくりして大くんを見る。
ものすごい力で握ってきたのだ。
手から怒りが伝わってくる。
大くんは私を憎んでいるのだろうか。
姿を消した時、当時の社長からどんなふうに説明を受けたのだろう。
「では、参りましょうか」
杉野マネージャーの声で大くんは手を放す。
「はい」
笑顔で答えて歩き出す大くんの後ろ姿を見つめた。
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