シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

*  *   *


十年前――……

「それ……セフレなんじゃないの」


セフレ。まさか、私に限ってそんな破廉恥なことありえない。
パニクっている私を呆れた顔で見ている玲。
カフェのざわざわする音すら耳に入ってこない。
七月から九月の間はレコーディングがあったようで、会いに来るのは夜中ばかりだった。そして、家に来るたびに「充電」と言って紫藤さんは、私を抱いたのだ。
そのことを玲に相談すると、セフレだと言われてしまった。

「都合のイイ女ね。残念ながら」
「でも、悪い人じゃないっ。すごく優しいし」
「ふーん。じゃあ、付き合ってるんじゃないの?」
「好きって言われたこと、ない」
「じゃあ、聞いてみたら?」
「き、聞けるわけないでしょ」
だから、駄目なのかもしれない。
ズルズルと抱き合うだけの関係を続けてしまうのは、自分でも良くないと思っている。
「今度会わせてよ」
「う、うん。聞いてみるね」

会ってもらうのはいいけど、真実を知るのは怖い。紫藤さんに会ってとお願いしたら「お前はセフレだ」って言われるかもしれない。
玲とカフェを出ると、秋らしい風邪が吹いていた。十月になり、だんだんと日が暮れるのも早くなった気がする。
テレビをつけると、COLORを見る日が多くなっていた。十一月に新曲が発売されることで宣伝をしているみたいなのだけど、COLORのメンバー赤坂成人さんが俺様の役でドラマに出ていて人気が出てきたらしい。
私は相変わらず、カラオケにいた女の人の話は聞けないまま過ごしている。
大学生になって一人暮らしをして、バイトをして、紫藤さんにバージンをあげて。半年前まではまるで子供だったのに、大人になった気がした。

好きな人に何かしてあげたいと思うのは、自然のことなのだろうか。
COLORのホームページを見ていると、紫藤さんの誕生日が書かれていた。
十月二十日、あと十日だ。
私と六日しか変わらないのね。なにかプレゼントしたいな。お祝いしてあげたい。
そこで考えたのは、プレゼントを買ってあげることだった。時間が空いた時に、ストラップを買ってきた。
あまり高級過ぎても気持ちが重いだろうし、手軽にプレゼントできるものと思ったのだ。私が彼女だったら、サプライズで会いに行ったりするのだけど。
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