シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
数日後、玲とコーくんカップルが家に遊びに来た。
鍋パーティーをするという名目で紫藤さんに会ってもらうためにだ。
ほぼ準備を済ませて、紫藤さんを待っている状態だった。

「そう言えば、仕事って何してんの? 大学生じゃないの?」
玲が聞いてくる。詳しくは言っていなかった。
「大学生なんだけど、歌手なの」
「マジ? 誰?」
「COLOR、わかる?」
「うん。の、誰?」
「紫藤大樹さん」
「またまたー。美羽ったら冗談が上手になったのね」

コーくんも、ソファー座りながらクスクス笑っている。
誰も信じてくれなくなるほど、COLORは知名度をあげていた。
チャイムが鳴りドアを開けると、紫藤さんだった。
背中に感じる玲とコーくんの驚いた視線は見なくてもわかる。


「ただいま、美羽」
当たり前のようにいつも通り抱きしめてきた。
「ちょ、友達来ているんですけど」
「……え」
中へ入っていくと、玲が「そっくり」と呟いた。
紫藤さんは笑顔を作る。
「いつも美羽と仲良くしてくれてありがとうございます。紫藤大樹です」
丁寧にお辞儀をして挨拶をした。
「え、本物?」
コーくんが言う。
「はい。そうですよ」
ハッキリとした口調で言う紫藤さん。
「知っていてくださって嬉しいです。ペーペーなんで」
笑っている。アイドルスマイルだ。
テーブルに鍋を置いてグツグツするのを待ちながら、紫藤さんへの質問タイムが開始された。
紫藤さんは、嫌な顔ひとつしないで答えていく。
鍋ができ上がって皆でつつきあう。
まるでダブルデートみたいで嬉しい。紫藤さんは、いつも通り優しくて、鍋を取り分けてくれる。
「美羽、肉団子好きだもんな。あーん」
 食べさせてくれて、恥ずかしかった。
「あの。紫藤さんは美羽のこと、好きじゃないんですか?」

爆弾発言をした玲に慌てふためる私。

「玲! 変なこと聞かないで。いいの、いいんだってば!」
「いい質問じゃん」
本当の気持ちを知って会えなくなる。そんなの嫌だ。
絶対に紫藤さんは私のことを好きじゃない。シーンと静まり返る部屋で、紫藤さんはクスって笑った。
「玲さん、俺は美羽のこと好きですよ」

ハッキリとした口調で言った。驚いて紫藤さんを見る。
「好きって、どういう意味で? 紫藤さんならモテモテでしょう? 美羽の体目的なら可哀想なんで遊ばないでください。この子、ピュアなんです」
「れ、玲……」

ちょっときつい口調で問いただすように言う玲。だけど、紫藤さんは全く動じない。

「女として好きだし、遊んでつもりはないです。美羽は、俺に遊ばれていると思ってたのか?」
視線を私に向けられて困ってしまい、素直に頷いた。
すると、コーくんが紫藤さんをかばうように笑う。

「あーなるほど。男は口下手だからねー。付き合ってると思ってたパターンか」
「付き合ってると思ってました」
紫藤さんは、苦笑いをした。うそ、つ、付き合ってんの?
その場の流れで言ってるとか?頭が真っ白になる。

「不安にさせてごめんね、美羽」
優しい眼差しを向けられると、ドキドキしすぎて耳が痛い。

「芸能人でモテモテなのに、なんで美羽なんですか?」
玲は聞きたいことをイチイチ代弁してくれる。

「芸能人と言っても、俺は一流じゃないです。たとえ一流だったとしても、俺は美羽しか愛せません。色々話して時間を過ごす中でフィーリングが合う人に出会ったことがなかった。……事務所には、恋人を作るのを禁止されているんで秘密にしてくださいね」
切なそうに言った紫藤さん。アイドルって恋人作るの禁止だって言われるよね。たとえ彼女になれても、堂々とできないのか。それもそれで悲しい。でも、すごく嬉しいことを言ってくれた。

「どうやら本気っぽいので安心しました。これから、どんどん売れてスターになっても美羽を大事にしてあげてください」
「もちろんです」
核心あふれる声に胸が温かくなった。
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