シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
二人とも果てて布団に転がりながら、ポツリポツリと会話をする。
「いつから、その……付き合ってると思っていましたか?」
「初めて抱いた日からだよ。そりゃあ俺も不安だった。だけど、誕生日プレゼントをくれて、やっぱり付き合ってるんだって思ったんだ。美羽もそのつもりだと思っていたんだけど」
「う」
「美羽はお子ちゃまだから、言葉で言わなきゃ駄目だな」
「ヒドイ」
頬を膨らませると「フグみてぇ」と優しい口調で言って、チュってされるから、怒る気力もなくなる。カラオケにいた女の人の話って聞いてもいいのかな。束縛女だと思われちゃうかな。
「なーに、不安そうな顔してんの?」
「カラオケにいた女性って……」
「ああ。妬いてくれたんだ?」
意地悪な顔をして見つめてくるから、悔しい気持ちになる。
「嬉しいけどね。やっと聞いてくれたって感じ」
「……べ、べつに、妬いてない」

私が気持ちを隠すように言うと、喉でククって笑った大くんは頭をなでてくれる。
「宇多寧々。モデルを最近やり始めたんだけど、知ってる?」
首を横に振る。
「大物プロデューサーの娘でさ。COLORを気に入ってくれたみたいなんだ。で、カラオケに行ったのは接待みたいなもんさ。すげぇお嬢様だから機嫌とらなきゃいけないの。ま、そのおかげで仕事もらえたりしてんだけどね」
仕事なら仕方がないか。信じるしかないもんね。
「俺が愛してるのは美羽だけ。知ってるだろうけど、俺はそんなに簡単に人を好きにならないから」
「信じます」
「俺も、美羽を信じるから」
こうやって疑ったり、信じたりの繰り返しで愛は深くなるのかもしれない。
だけど、恋愛は果実のように甘いだけじゃない。
付き合い始めたタイミングが悪かったのだろうか。CDが発売されてから、大くんはめちゃくちゃ忙しくなってしまったのだ。
会いたいと言ったらわがままになる。だから、ひたすら我慢する。
「会いたいよ」
寂しさを埋めるようにバイトに励む日々。
小桃さんのカラオケに付き合ったりしていて、カラオケでもいいから大くんに会えないかなって思っていた。



「バイト辞めることにしたの」
カラオケが終わり曲が途切れた時、小桃さんは突然そんなことを言った。
「デザインの勉強をしようかと思って。やっぱり、服が好きみたいなの」
自由奔放で、ちょっと憧れるなーなんて思いながら聞いている。自分の好きなことはなんなのだろう。何を目標に生きていけばいいのだろう?
大くんは、アイドルとして売れ始めて、自分は何も目的がなく生きている気がした。
「人生、後悔しない道を選んだほうがいいよ。あ、そーだ。ずっと友達でいてよね」
にっこり笑った小桃さんは、魅力的に見える。
「こちらこそ」
「美羽ちゃんは、どんな未来が待ってるんだろうね」
未来か。
この先ずっと、私は大くんと一緒にいることはできるのだろうか?
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