シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
それから時が流れていき――。
年末年始のテレビが普通の番組編成に戻り、バレンタインデーが過ぎて、ホワイトデーも過ぎた。イベントがある時は、どんなに遅くなっても会いに来てくれて、体を重ね合わせて愛を確かめ合ったけど。会いたい時に会えないのは、やっぱり寂しい。前はひと目会うだけでも幸せだったのに――。
いつから私はわがまま娘になってしまったのだろう。
大学二年になり新たな決意をして頑張ろうと気合いを入れた時、テレビCMで大くんと綺麗なモデルさんが、恋人みたいな雰囲気で旅館に泊まっている設定のものが放映されていた。
仕事上のことなのだけど、気になってしまう。しかも、雑誌にプライベートでも仲がいいとか書かれてるし。

「なんかさ、COLORをテレビで見ない日ないんだけど」
玲とカフェで語り合う。たまたま雑誌に目が行った私を玲は笑う。そして、玲は雑誌を取ってきてテーブルに置いた。
「そんな泣きそうな顔しーなーいの」
「不安なの。芸能界って美しい人が多いでしょう? 私なんていつ捨てられるか分からないもん」
「紫藤さんは、そんな人じゃないと思うけどなー」
玲は私と大くんの恋愛を応援してくれているみたい。頑張らなきゃ。
「ちゃんと、思いは伝えた方がいいよ」

ゴールデンウィークが過ぎ、一人で家でテレビをボーっと見ていると、大くんが映っていた。
可愛いタレントさんと、恋愛論を語っている。
「かっこいいな……。あんなすごい人が自分の彼氏だなんて信じられない」
寂しいし、会いたい。
こんなにも自分が欲深い人間だなんて思わなかった。不釣合いだ。自分の存在がちっぽけに感じてたまらなく悲しい気持ちになる。


チャイムが鳴った。二週間ぶりに大くんが会いに来てくれたのだ。
「ただいま」
「お帰りなさい」
いきなりギュッと抱きしめてくれる。
「大くんの匂い」
「恋しかったか?メールや電話だけじゃ足りないよな。ごめんな」
久しぶりに大くんに会えた時は嬉しくてたまらないのに、何を話したらいいか分からなくなる。だけど、感情が昂って涙だけは出てきてしまうのだ。
「美羽」
「ご、ごめんなさい」
大好きな人の前では笑顔でいたいのに、私って最悪だ。ちゃんと笑顔で好きって言いたいのに。大くんは、背中をポンポンってしながら「恋って甘いだけじゃないよな。辛い時もあるよね。でもさ、乗り越えたらその先にあるものはとてつもなく最高かもしれないな」
「大くん……」
「美羽、愛してる」


ちょっと冗談ぽく言って、次には真面目な視線に変わり優しいキスをくれる。そのまま、薄っぺらい布団へ寝かされて首筋に顔を埋めてきた。

涙が目に浮かぶ。不安が押し寄せてきて、ついつい泣いてしまった。その涙を親指で拭いてくれる。
「寂しかったらちゃんと言えよ?」
「寂しい」
「なるべく会いに来るから。ロケで会えない時は、電話する。俺は、美羽を世界で一番大事だから」
「うん」

頼りなく頷くことしかできない。
小さなことに感謝して、会える時を大事にして行こうって思う。そんな気持ちを込めて大くんの首に腕を絡ませて、自分からキスをおねだりした。
そのまま大くんの唇は私の全身を愛撫し始める。


感じるところは避けられるのに、なぜだか、いつも以上にドキドキさせられてしまうのだ。
んっと甘い吐息が溢れだす。こんなにも一つになりたいなんて思う自分に驚いた。素肌のまま抱き合いたい。自分と大くんの間に一ミリも隙間を作りたくない。こんな風に自分以外の人を好きになるなんて、想像してなかった。
お互いに強く抱きしめ合って、奥深くで感じる。快楽だからとかじゃなくて、こんなに素晴らしい行為はこの世の中に他には、あるだろうか?


大くんの逞しい腕に抱きしめられて、腰を動かされ。私は声を押し殺す。
もう、大くんのこと以外考えられない。
一気に膨らんで弾け飛ぶ意識の中、身体の中に熱い物を感じた。
避妊具が敗れてしまったのだ。
「何があっても責任取るから」
大丈夫だよね。きっと。大丈夫。
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