シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
「美羽、大丈夫? 体調悪そうだけど」
心配そうな顔をする玲に、笑顔を作って誤魔化す。本当は、けっこう、身体がだるくて辛い。
七月の中旬になり、大学は明日から夏休みに入るところだった。
最近、あまり食べたくない。胃腸炎だろうか?
胸のあたりがムカムカして横になりたくなるのだ。
「風邪かな」
玲は食欲旺盛のようで、ランチ中もガッツリ食べている。んー、早く帰ってゆっくりしたいな。
「風邪って一言で済ませられないこともあるよ。ストレスだったりとか、どこか悪かったりとか。あまり無理しないで病院に行ったら?」
「そうだね。そうする」

次の日の夜。
バイトを終えてドラッグストアーに寄って、胃腸薬を手に取った時「生理痛に」と書いてある鎮痛剤が目に入った。
そういえば……生理きてないかも。バイトが忙しかったり、レポートをまとめたりけっこうハードだったから、ホルモンのバランスを崩しているのかもしれない。そのせいで体調が悪いのかな。
レジに行こうと歩き出すと妊娠検査薬が目に入った。
「まさかね」
小さな声で呟いて通りすぎようとしたのだけど、なんだか気になってその場から動けない。もしかしたらってこともありえる。そっとお腹に手を当てると、不思議な気分が沸き上がってきた。
どうしよう。素直に嬉しい。
大くんの赤ちゃんがもしもお腹にいたらすごく幸せ。しっかり産んで育てたい。
でも……彼はアイドル。
これからどんどん売れていく人。
万が一妊娠していたら、一人で育てなければいけない。親だって激怒するだろう。一気に不安が押し寄せる。悪い予想の九十九パーセントは起きないって言うし、心配するよりも検査したほうがいいよね。


家についてトイレに行こうと思ったら、大くんから連絡が入った。結果はちゃんと知らせなきゃいけない。隠しちゃダメだから今から検査することを言おう。
「もしもし」
『美羽、ごめん』
「どうしたの?」
『実は週刊誌に撮られた。事務所の力でなんとか掲載されないことになったんだけどしばらく会えない』
「え……」
『売れ始めてこれから事務所にも恩返ししないといけないし、三人組だから協力しないといけないんだ。でも、俺は美羽を愛してるから。必ず堂々と迎えに行くから。すっげえ勝手かもしれないけど待っててほしい』
「うん」
電話を切ると、寂しさが込み上げてきて涙が溢れた。会えないって思うだけで、こんなに泣けるなんて。
悲しみを堪えつつトイレに向かった。どうか、どうか、赤ちゃんができていませんように。

待っている間の時間が、たったの一分だったのにこんなにも長いと感じたことはない。
初めて家に大くんが来た日のことを思い出していた。
現実を知るのは怖いけれど、目を背けちゃいけない。ゆっくり、検査薬を見ると、線がはっきりと出ている。
「えっ」
頭の中は大パニックになり、しばらくトイレから出ることができなかった。大くんに言わなきゃ。……でも、言えない。言えるわけがない。
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