シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
一眠りして目が覚めた。
両親へ妊娠の報告するために久しぶりに実家に帰ると母は突然の娘の帰宅に喜んでくれた。もう少し頻繁に帰ってきてあげれば良かったと反省する。
父が帰って来るまでは黙っていた。父が帰宅して言おうと思うと緊張してなかなか言えない。
大学はどうするのかとか、結婚はできるのかとか。一人で説明できるだろうか?
やっぱり、大くんに相談してから来るべきだった。
黙り込んだ私を見て「何かあったんじゃないの?」と優しく問いかけてくる。いつかは、言わなければいけない。隠し通せることじゃないのだから。

「COLORって知ってる?」
「ああ、アイドルグループの?」
「うん」

親世代にまで浸透しているのだと、実感した。
父は「あー、聞いたことあるよ。会社の子でファンがいるみたいだ」と教えてくれた。
私を大事に育ててくれて、自分にとって自慢の両親だ。
赤ちゃんを妊娠して改めてそう思えるようになった気がする。私は、もう、母親なのかもしれない。

「そのアイドルがどうしたの?」
「実はね……お付き合いしてるの」
「騙されてるんじゃないだろうな」


いつも温厚なお父さんが、むっとした口調になる。
「騙されてなんかない。ちゃんと、愛されてるの」
「お父さん、美羽だって年頃なんだからボーイフレンドくらいできるわよ」
「ん」
ちょっと不機嫌に言ったけど、お父さんは私を大事に思ってくれてるのだと思う。
箸を置いた私。
なんとなく張り詰めた空気が漂った。ちゃんと、伝えよう。
ゆっくりとでもハッキリとした口調で言った。
「……赤ちゃんができました」
怒鳴りだすかと思ったお父さんは、冷静な顔をして食事を続ける。
「どうするつもりなの」
母が聞いてくる。
「産む」
「大学は? 結婚は? 相手の人はなんで一緒に来ないの?」
「週刊誌に撮られて……今は、おおっぴらに会えないの。でも、」
「でもじゃない。責任取ってもらわないと。甘ったれたこと言わないで。今すぐ、ここに来てもらいなさい!」

激しく怒るお母さんの目には、涙が滲んでいる。唇を噛み締めながら怒りを露わにしている様子を見て、この妊娠は正しくないものだと感じた。
「美羽! 美羽!」
お母さんはパニック状態で、私の名前を連呼する。
お父さんは、固まったまま。
急に不安になり、私は、仕事中に申し訳ないと思ったけど、携帯で大くんに電話をかけた。
『美羽、どうしたの?』
「あのね……今、実家で」
話の途中でお父さんが電話を取り上げた。
「美羽の父親です。住所を言いますので、いますぐ来なさい」

ピッと電話を切った。

「お父さん!」
「……」

一時間後、ャイムが鳴った。玄関に向かうと、大くんはスーツ姿で本当に訪ねてきた。パパラッチに狙われる危険な行為だったのに、急いで来てくれたのだろう。
玄関に歩いてきたお母さんに向かって「紫藤大樹と申します」と頭を下げた。
リビングに通された大くんは、ハッキリとした口調で「結婚させてください」と言うと、頭を床につけた。私のために、そこまでしてくれるなんて。
「キミ、娘はまだ大学生なんだ。重大なことだとわかっているのか?」
「はい。美羽さんを愛しています。順序が正しくないことは承知しております」
「アイドルなんだろ? 今、結婚したら仕事はどうするんだ。守っていけるのか」
「……」

大くんは、じっとお父さんを見つめると何も言えなくなってしまった。
「堕ろしてもらう。そして、娘に一生会うな」
「お父さん、嫌っ。私は……」
「美羽。冷静になりなさい」
「どんな状況になっても美羽さんと、子供を命がけで守ります。貧乏生活になるかもしれませんが、絶対に努力して」
「貧乏をさせるために、一生懸命育てたわけじゃない。ふざけるな」
大くんは、私の手をギュッと握った。
「美羽。俺のこと信じて」
「大くん」
お父さんは、激怒して大くんの頬を思い切り殴った。正座していたのに、倒れていく。
「大くんっ!」
駆け寄る私は、お父さんを睨む。
「最低!」
「帰りなさい。帰れ!」
ゆっくり立ち上がる大くん。
「わかっていただけるまで、通います。俺は、真剣です」
私は家に帰ることが許されず、実家にしばらくいることになった。携帯も奪われてしまい、誰とも連絡を取れない状態にされたのだ。
泣いた。ずっと泣いていたけれど、父親も母親も、私への愛があるからこそ怒っているのだと感じる。
でも、こんな状態で生きているなんて辛すぎて、食べることもできない状態だった。
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