シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

第二章

エレベーターに乗って、打ち合わせ室まで向かう間、一気に過去が蘇り泣きそうになる。
落ち着け、私……。
大くんが目の前にいるのに、過去はなかった物として受け止めなければならない。必死で忘れようとした過去なのにふつふつと記憶が沸き上がってくる。すごく、息苦しい。
打ち合わせ室について私と杉野マネージャーは大くんと向い合って話を始める。

杉野マネージャーが説明を開始すると。大くんは真剣な表情に変わる。
昔だったら、大くんをじっと見つめていると、顔を上げて目が合うとニコッと笑ってくれた。
そして「美羽。どうしたの? 俺のことがそんなに好きなんだ?」と優しい声で問いかけてきて、ギュッと抱きしめてくれた。
大人になった大くんは、魅力が増していていい男オーラがムンムンすぎる。あの腕に抱きしめられたら、一気にキュンキュンして心臓麻痺を起こしてしまうかもしれない。世間の女性が憧れるのも、仕方がないことだ。


「ここからすぐ近くのスタジオで十一時から十三時まで写真撮影を行います。終了後、車で移動しながら昼食を取っていただき、十四時から海辺での撮影をさせていただきます。十七時からはスタジオでの動画撮影を行い、その日にすべて撮り終える予定ですが、海での撮影は翌日の朝、足りないカットを撮って終了です。ハードスケジュールになりますが、よろしくお願いします」
「わかりました」
「我社としても力を入れている商品ですので、紫藤様に期待しております」

杉野マネージャーの仕事をしている姿は、さすがビジネスマンって感じで見習うところがいっぱいある。私もいずれやらなきゃいけないことなんだよね。
「では、早速移動していただきます。お車を手配させて頂いておりますので」
立ち上がった大くんは、私を見下ろす。
ビクッとなって視線を逸らすと、何も言わずに歩み出した。何か言いたそうな感じがするのは、気のせいだろうか。

撮影する場所は、すごく近い距離なのに歩いて行かないなんて、どんだけVIPなんでしょうか。
スタジオにつくと、メイクを始める。何もしなくたってつるつるの肌なのに。
その間に私と杉野マネージャーは、カメラマンさんやスタッフさんにご挨拶を済ませる。
メイク室の様子を見ながら私と杉野マネージャーは、ヒソヒソと話す。
「芸能人のわりに、対応いいな」
「え、はい。そうですね」
「ま、これからキレ出すかもしれないけど」
数分そこで待っていると、池村マネージャーさんが「そろそろ終わります」とお知らせに来てくれた。
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