シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
「では、紫藤大樹さん入ります」

声を張り上げた杉野マネージャーの合図で、大くんが入ってきた。
髪の毛をふわりとさせて、白いYシャツの中に水色のランニングを着てジーンズというラフな格好なのに、眩しいほどオーラが出ている。

「よろしくお願いします」
大くんが大きな声でしっかりと挨拶をする。
「では早速セットペーパーの前に立っていただけますか?」
カメラマンさんは、我社の要望通り撮影を進めてくれる。
「杉野マネージャー、セットペーパーとはなんですか?」
「バック紙のことだよ」
「なるほど」

言われた通り、大くんは白いセットペーパーの上に立つ。目がすごく真剣でスイッチが入ったようだ。パシャカシャとシャッターを切る音が響く。
クールな表情をしたり、ニコッと笑ったり、優しい表情を浮かべたり、器用に顔を動かす。さすが、プロだと思った。我が社の商品を持ったり、スプーンですくって食べたり。
一コマずつ素晴らしい絵を残してくれる。

大くんの仕事現場をこんな風に間近で見れるなんて、激レアだろうな。全国のファン……いや、ファンじゃなくても羨ましがられるだろう。
「はい、以上になります」
カメラマンの声が響く。写真をチェックすると、どれを使ってもいいでき栄えだ。あっという間に仕事をこなす姿に、ただただ感心する。

「すげぇ」
呟いた杉野マネージャー。
時計を見るとまだ十二時になっていなかった。一時間も、早く終わったのだ。
「予定が狂うな……」

困っている杉野マネージャーの元に、大くんが近づいてくる。

「時間があるので早めに出発して、海辺でランチなんていかがでしょうか?」
間近で見ると、汗一つかいてない。涼しい顔を浮かべている。


「そうですね。少し休んでいただけますね」
「一緒にランチしましょうよ。せっかくの機会なんですし。あ、まだ買ってないですよね? 沖縄の有名なハンバーガーをテイクアウトして全員で食べましょう」
「は、はい」
予算を心配しているのだろう。杉野マネージャーは困った顔をしている。

「あー、スタジオの皆さんは僕宛に領収証を事務所に送ってください」
そう言うと、池村マネージャーさんが名刺をカメラマンさんにさっと渡す。
ぎょっとしながら、海辺にいるスタッフのことを考えると……軽く十五人はいるだろう。カメラマン、音声さん、メイクさん、照明さん、大道具さん、現場監督……。
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