シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

話がまとまり車で海を目指す。途中でハンバーガーをテイクアウトした。多めが安心だと言って二十人前を注文し、大くんが支払った。
大物女優さんとかも、ドラマ撮影後にスタッフを連れて飲みに行ってねぎらうとか、聞いたことがある。スタッフを大事にすることは、大切なことだと語っていた。


到着したのは十三時でまだ余裕があり、撮影準備しているスタッフを集めてハンバーガーを配っているのは、なんと大くん。一人一人に「お世話になります」と頭を下げている。
「いやぁ、一流の人は礼儀正しいって言うけど、すごいな」と関心した口調の杉野マネージャーに「ええ。今日だけじゃなく、紫藤はいつもああなんです」

池村マネージャーさんが言った。
いつも、なんだ。
大くんは、昔もそうだった。よく気がついてすごく礼儀正しい人だったよね。


杉野マネージャーにハンバーガーを渡し終えると「どうぞ、美羽さん」と言って私にもハンバーガーをくれた。遠くから見ているだけだと、落ち着いていられるけど、近づいてくると心臓の鼓動がバフバフしている。

皆にハンバーガーを配り終わった大くんは、特別なところに行くわけでもなく皆と一緒に砂浜に座って、ハンバーガーを美味しそうに頬張る。カメラマンさんや、メイクさんと話したりして場を和ませる達人だ。
あの人は……間違いなくスターだと思った。

私は、あんなすごい人に愛されて、しかも子供を妊娠していたのだ。大くんに産んだことを伝えることができなかったとしても、産みたかった。心から守りたいと思っていた。

それは、芸能人だからとかじゃなく、心から愛した人の赤ちゃんだったから。ジャケットのポケットに入れた、はなのしおりをそっと撫でる。産んであげられなくて、ごめんね。私のお腹の居心地がきっと悪かったのだろう。何年経っても、お詫びの気持ちは消えない。申し訳なくて、いつも、いつも心の中で想っている。
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