シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

自分の部屋について上がった息を整える。
久しぶりのキスで驚いてしまった。ベッドに倒れて、涙を拭う。どうして、あんなことするの?
不安になってはなのしおりを握ろうとポケットに手を入れる。
「……ない」
慌てて起き上がって探す。間違いなくポケットに入れておいたのに。お守りのように、大事にしていたのに、一体どこへ置いたのだろう。
「もしかして」
大くんに無理矢理キスをされた時に、あの部屋で落としたのかもしれない。他の物であればいいけど、あのしおりは大事なもの。
取り返しに行かなければならない。だけど、もうあの部屋に行く勇気はない。
電話をしてみよう。会社の携帯を握るけど、万が一通話履歴を確認されたらいけない。
自分の携帯を取り出し、会社の携帯履歴に残っていた数字を確認しながら押す。

『はい』
「あの、あの……」
『なに、美羽』
「声で、わかるんですね」
『……で、なに?』
イライラした様子で話してくる。
「しおり……、押し花しおりありませんか?」
『……そんなに大事な物なの? たかがしおりなのに』
赤ちゃんの代わりにしていたの、なんて言えない。どうしたら良いの?
「あの、大事なの」
『へぇ。なんで? 杉野からもらったの?』
「違います。とにかく、大事なんです」
『じゃあ、もう一度部屋に来てあるか確かめてみたら? さっきの続きヤラせてよ』
「どうして、そんなこと……」

熱愛報道があるのに。どうして、抱こうとするの?
もう、大人だから好きとかそう言う感情がともなわなくても、できちゃうのかな。こんな魅力のない身体なのに、どうして私なんだろう。

『十年の間に……裏切られた思いが膨らんでたから。今日、再会して一気に爆発した』
「……」
『どうして、平気なの? ごめんなさいって思わないわけ?』
なにも言えない。平気じゃないもの。だって、だって、私は大くんに恨まれているとわかっても、大くんのことがまだ好きだって思うんだから。
「いっぱい恨んでもいいから、しおりを……」
『しおりなんて、知らない。確かめに来いって』
どうしてもしおりは返してほしい。
『じゃあ、俺が美羽の部屋に行く。何号室?』
「な、なにを言ってるんですか?」
『どうしてそんなに困るの? 彼氏いるのか?』
「いないですけど」
『じゃあ、また会ってくれる?』
「え?」
『……悔しいけど、裏切られても……美羽のこと……。ごめん。自分勝手で』

本気なのだろうか?
信じても、いいのかな。
でも、過去にあんな風に別れたことを棚に上げていいのかな。
お母さんやお父さんを悲しませたし、COLORのメンバーも不安にさせてしまった。
それに、大くんはスーパースター。やっぱり、同じ位の人と付き合って結婚するほうが、ファンの人たちも祝福するだろう。
それに、久しぶりに会ったから好きだとお互いに勘違いしたのかもしれない。
はなのしおりを、取り返しに行くリスクが高すぎる。
はな……ごめんね。しおりが手元になくても……あなたを想う気持ちは変わらないから。
「もしも、しおりが紫藤さんの手元にあったとしたら、大事にしてください。心からのお願いです」
『よく、わかんないよ、美羽』
「熱愛報道も出ていたようですね。幸せになってください。では」
『ちょ、待て』
一方的に電話を切った。そして、着信拒否リストに登録する。
無かった過去なのだ。だから、これでいい。
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