シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない



東京に戻って千奈津にお土産をあげると、すごく喜んでくれた。
「ねーねー、生紫藤大樹はどうだった?」
「綺麗な顔だったよ」
「いいなぁー」
はしゃいでいる千奈津に「仕事しろ」と言って、紙で丸めた棒状なもので頭を軽く叩いている杉野マネージャー。日常に戻ったって思う。

あっという間に一ヶ月が過ぎた。
はなのしおりが無いことに違和感を覚えつつ、なんとか頑張っている。
CMもでき上がってきて、最終チェックをして、八月から放映される予定だ。九月からはCOLORのツアーがあるらしく、うちの会社がスポンサーになった。
気持ちを押し殺そうとしても、気がつけば大くんのことばかり考えている。
つい先日も、熱愛報道を見てしまった。
好きだとか言ってくれたけど、あれは嘘だったんだろうな、きっと。
杉野マネージャーは、あれから大くんのことは聞いてこない。
ただ「スポンサーになったんだな」と、ボソッと言われた。

大くんと会って、実際にどうだったか。玲には素直に伝えることができた。
なんとか時間を取ってもらって、コジャレた居酒屋で、お酒を飲みながら色々と話を聞いてもらう。
隠さずに全てを話して、なんだかスッキリした。
「要するに好きってことなんじゃないの?」
「……うん」
玲は小さなため息をつく。
「親のことだったり、事務所のことだったり、色々とあるけど。美羽が好きだと伝えるのは罪じゃないんじゃないの?」
罪じゃない……。そんな風に思っていいなんて考えたことが無かった。
「迎えに来なかったのは許せないけど、何か理由あるって信じたいよね」
玲はビールをゴクリと飲んだ。
「だけど、赤ちゃんのことは言えなくて」
「どうして?」
「事実を知った時の反応が怖いの」
「怖いからって目を背けちゃ、幸せは掴めないんじゃないかな」
玲の言う通りだ……。
< 83 / 291 >

この作品をシェア

pagetop