シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
■紫藤大樹side

沖縄の撮影が終わり飛行機で帰る最中、目を閉じていたが、美羽のことばかり考えている。
――十年ぶり……か。
まさか、再会できるなんて思わなかった。予告なしに会った時、俺は自分を見失いそうになった。ずっと、美羽に会えなくなってから怒りしか残ってないと思っていたのに、俺は愕然とした。撮影中も仕事に集中できなくて、どうにか二人きりになりたいって思っていたんだから。
バカだよな。何年も同じ女を好きでいるなんて。自分がこんなに一途だとは知らなかった。

兄貴が亡くなってからも、俺はあの家に帰ると兄貴がいるような気がしてたまに行ったりしていた。今考えたら明らかに不審者なんだけどね。
俺は、とにかく孤独だった。親と兄の死を間近に見て、生きていることの有り難みを知ったと同時に、死への恐怖心も芽生えていた。
いつも、どこか暖かい場所を求めていたのかもしれない。

美羽に初めて会った時、なんとなくフィーリングは合う気がしたけど、まさか恋愛感情が芽生えるなんて思わなかった。恋愛なんてできないと思っていたのに、気がつくといつも美羽の顔が浮かぶようになって、辛いレッスンがあった後でも美羽に会えると思うと頑張れたんだ。

――兄貴からのプレゼントって思った。

孤独すぎる俺に、与えてくれた兄貴からのプレゼント。


きっと、俺は美羽に出会うために生きているのだとさえ感じられて、愛しくてたまらなかった。美羽は言葉でちゃんと伝えてやらなきゃわからないタイプだから、気持ちが通じ合うまで時間がかかった。
初めて美羽を抱いた日。
俺は余裕が無くて、ついついソファーでしてしまったんだ。
目を閉じると鮮明に思い出すことができる。
もう一度、真っ白な肌の美羽に触れたい――……。
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