シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
まだどこかで、美羽を信じている自分がいる。
社長や美羽の親が、子供を堕ろしたと言っても、違うんじゃないかと思いたい。
今すぐにでも会いに行きたいと思っていたのだが、監視があまりにも酷かったし社長は何度も俺に暗示をかけてきた。
「あの子は、結局普通の幸せが欲しいのよ。見返してやりなさい」
そう言われていた。
でも、どうしても諦めきれなくて目を盗んで家に行くと美羽は引っ越ししていた。またあの家は空っぽの箱になっていたのだ。大きな大きな傷が心について、涙が自然と溢れ出す。唇を噛み締めながら嗚咽を堪えた。
両親も兄も死んで、さらに愛する人へも会えなくなった。どうして俺ばかりがこんな運命なのだろうか?
精神が崩壊しそうになりながら、仕事に励んでいた。
――美羽。会いたい。
すぐに会いに行けないもどかしさの中、COLORはだんだんと知名度を上げて行く。自由に動けない日々だった。そんな、ある日。
美羽が大学を卒業する二ヶ月前。そんなタイミングに、俺は勝負をかけ空いた時間に美羽の実家に行ったのだ。何が何でも美羽を連れ去ろうと思っていた。
実家のチャイムを押すと家にいたのは美羽のお母さんだった。夕方の時間を狙って訪ねたのだが、美羽は不在だった。それでも人目につくと危ないからと言って、中へ入れてくれたのだ。門前払いかと思っていたから、驚いた。
「美羽さんに会わせてください」
「あの子を好きになってくれてありがとう。あなたみたいな素敵な男の人が身近にいたら恋しちゃうわよね」
優しく微笑んでくれた美羽のお母さんは、やはり美羽に似ていた。
「早く会いに来たかったのですが、パパラッチなど、ご迷惑かけてしまうのでどうしても時間を置いてからじゃないと駄目だったんです」
「芸能人って大変なんですね」
一線を引かれたような言葉に、少し怖気づきそうになった。
「……本当に、美羽さんは子供を堕ろしたのでしょうか?」
「ええ」
間髪をいれず即答した美羽のお母さん。
「信じられないです」
それでも俺は、その言葉を受け入れられずにいた。
「残念ながら事実よ。あの子は就職も決まってやっと前を向いて歩き出したの。もう、関わらないであげてください」
真剣すぎる眼差しに、その時の俺は、何が正しいのか判断できなくなっていた。
美羽が、子供を降ろすはずないのに。産んでどこかにいるのではないか?
「もしも、あなたが美羽を想ってくれるのなら、そうっとしておいてください。一般人の美羽を巻き込まないであげて。陰ながらあなたを応援しますので」
その日、俺は美羽に結局会えなくて。それから、ずっと会えなかった。
そもそも、俺のことを愛していたならばどうにか連絡してくるハズだ。でも美羽は連絡先も変えて、俺との縁を切ったように思えた。
愛が憎しみに変わっていく――。あいつを後悔させてやる。
そんな風に思考が塗り替えられていった。そうしないと頑張れなかったんだ。