シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない



「紫藤さんが甘藤のCM出たから、ツアーのスポンサーになってくれたわ」
池村マネージャーから報告を受けたのは、振付の確認をCOLORメンバーとしていたダンススタジオでのことだった。
汗を拭きながら冷静なフリをする。
また美羽の会社と関係することができた。が、美羽に会うことはできるだろうか。
「マネージャー。関係者席で甘藤の社長さんにチケット送るでしょ? CM撮影に来てくれたあの人たちも招待してあげたら?」
「そうですね。用意しておきましょうか」
必ずしも美羽が来るとは限らないが、可能性はある。次こそ、会えるチャンスがあったら絶対に逃がさない。
そんな決意を密かにしつつ、仕事に励んでいた。


家にいる時は、いつもあの「花のしおり」を見ている。今日も一人でビールを飲みながらネットで色々調べるが「しおり」について有力な情報は得ることができない。
美羽は、なぜあんなにも取り返そうとしたのだろうか。
チャイムが鳴りドアを開けると、寧々がいた。
「帰ってきてたんだ? お邪魔するよ」
寧々は、わざわざ俺と同じマンションに引っ越してきた。
最近は、モデル業の傍ら女優としても才能を開花させている。


「入っていいよ」と言ってないのに、寧々は中に上がってきてソファーに座った。
「また見てたの? ボロボロしおり」
「悪い?」
「大樹ったら、相変わらず冷たいな。そんなにあたしのこと嫌い?」
「嫌いじゃない。恩は感じてるよ」
細い足を組んでフーっとため息をつかれる。
「なんかさ、最近、大樹おかしくない? 様子が変というか。あの時に似てるというか、抜け殻みたいな……」
あの時とは、美羽と別れた直後のこと。
俺のスキャンダルを消してくれたのは、寧々の親父である大物プロデューサーのおかげだったのだ。だから、寧々には頭が上がらない。
「べつに、普通だけど?」
「大樹。また変な女に引っかかっているんじゃないよね?」
「……」
美羽は変な女じゃない。寧々は、失礼な奴だ。
「なんで大樹は、あたしのこと好きになんないのかな」
「俺は簡単に人を好きにならないから」
「あたしは大樹のこと、大好きなのにね。報われないのかな」
呟くように言う寧々は、俺の様子を伺っている。
「寧々みたいな美人なら男なんて選び放題でしょ」
「うん。でも、大樹がいい」
「お前もそろそろ結婚する年齢なんだし、いい加減諦めたら?」
「大樹と結婚する」
「バカ」
結婚か。
美羽が頑なに俺を避ける理由は……もしかして結婚する予定があるからとか?
他の男と結婚する美羽なんて想像もしたくない。
今すぐにでも会って阻止したいが、俺にそんな権利はあるのだろうか。
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