シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない



東京でのライブが明日に迫っていた。そんな日も、俺は番組の収録をしている。頭の中は美羽のことでいっぱいで、胸が痛い。
明日、もしも会えたらなんて言おう……。二人きりになれるのだろうか。
せめて、子供のことだけでもお詫びしたい。
「では、続いてのVTRを見てみましょう」
明るい声でふって映像が流れているのを見つめるが、ワイプ撮影もあるから気を抜けない。驚いた顔をしたり、頷いてみたりしている。
……美羽。
早く、会いたい……。

ライブの当日、リハーサルをして本番に向けて精神の統一をしていた。楽屋でテンションを上げつつ、時間が来るのを待っている。
美羽は現れるだろうか。ソワソワする気持ちを落ち着かせるため、深呼吸をした。
「いつになく緊張してるな」
メンバーの赤坂が声をかけてくる。
「そうかな。普通だけど……」
自分の緊張が表に出ているのか。なんだか恥ずかしくて身を隠したい気分になった。
「甘藤の社員さん、ライブ終了後に挨拶にいらっしゃるから」
池村マネージャーが俺に伝える。
その社員の中に、美羽がいますように。
もし、会えたら……。
心を届けるのが下手な俺だけど、どうか、美羽のハートに俺の愛が染みこんでほしい。
気合いを入れてステージへと向かった。
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