シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
美羽side

社長室に呼ばれた私と杉野マネージャーは、何事かと思いながら目を合わせた。
こじんまりとした社長室。社長の前に並んで立つと社長はにっこりとする。
「COLORのライブスポンサーになっただろう。行きたいのは山々なんだが、どうしても外せない接待があってね。チケット、三枚届いてるから、CMを作ったキミら二人と、社員を連れて行きなさい」
「しかし、役職者の方でどなたか行かれたほうが……」
杉野マネージャーが言う。

「いやいや、堅苦しい雰囲気になるからね。まかせたよ。それとだね。孫が紫藤大樹のフアンでね……サインを貰えたらもらってきてくれないだろうか?」
顔を赤くしながら、フアンという社長が可愛く見えた。
ファンじゃなくて、フアンって言うところが妙にツボに入った。
社長室を出ると、杉野マネージャーがポツリと呟いた。

「とことん、初瀬と紫藤大樹は縁があるんだな」
「え?」
「俺はあんまり賛成したくないけど、初瀬が今でも思っているなら素直になれば? フラれるかもしれないけど」

着信拒否を解除して、テレビに映る大くんの姿から目をそらしていたけれど、やはり辛い。
エレベーターの前にたどり着いた私と杉野マネージャー。
だるそうにボタンを押す杉野マネージャーは、振り返らずに言葉を続ける。

「熱愛報道あるだろう?」
その通りなのだ。不安で仕方がない。
「失恋したら慰めてあげるから。なーんてな」
おどけたように言うから、ついついにこっとしてしまう。
「杉野マネージャーらしくないですよ、そういうキャラ。マネージャーはもっと紳士でいてほしいんです」
「そっか。紳士ねぇー」

到着したエレベーターに乗り込む。私と大くんが出会っていなければ杉野マネージャーと、お付き合いしていたのかもしれない。それほど、素敵な人だけど、やっぱり私は大くんを忘れられない。

「ライブのチケットどうしよっか。争奪戦になるよな。平等にクジかな」
「そうですね」
「俺らはCM作った関係で行かなきゃなー。いい音楽歌ってるし、楽しみだな」
「……はい」
会えたとして、二人きりで話す時間はあるのだろうか。着信拒否を解除して、自分の心の扉も開けるかな。
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