シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない

コンサート会場に着いた私達はスタッフに声をかけると、関係者席へ連れて行かれた。
「終了後にご挨拶させていただけますか?」
杉野マネージャーが聞くと、ご案内に来ますと言ってスタッフは去って行く。
「ヤバイ、近くで見れちゃうってわけ?」
千奈津がはしゃぐ。まるで女子高生みたい。
真ん中に千奈津が座り、私と杉野マネージャーが挟むように座った。
関係者席は、スタンド席にあってステージからは遠い位置にある。けれど、会場を見渡すことができる眺めのいいところだ。
圧倒的に女性客が多い。デビューしてから十年は過ぎているから、お姉さん系も多いけど、まだまだ女子高生からの人気もあるようだった。

パイプ椅子に座っていると、関係者が数人案内されていた。
会場内に流れているのは、COLORの曲ではなくダンスミュージック。
早く出てこないかとワクワク感をかき立てる曲なのに、私は緊張している。まるで、身内がステージに立つような気分だ。

ステージが暗くなると、黄色い声援が爆発する。
「キャー」
悲鳴に近い声の中、私達は関係者席ということもあって大人しく座って見ている。


ヒット曲のイントロが流れると、更に観客の声は大きくなった。そして、COLORが登場すると夢の世界へ一気に連れて行かれるような感覚に陥る。体がふわっとしてCOLORの世界観に一気に引きこまれた。


気持ちが高揚するなんていつぶりだろう。COLORの曲をしっかり聞いたことはなかったけど、売れている曲ばかりだったから自然と耳に入ってきていて。どの曲も楽しめた。会場が一体になっていて、ペンライトを振っているのを上から見るとまるで光の海みたいで綺麗――。

大くんがバラードを歌う。

甘くて優しい声。

スクリーンに映されている大くんは一流の人。

それに、大くんはとてもキラキラしている。


あぁ……やっぱり、私とは不釣り合いだ。仕方がない……。
今日のこのステージを見せてもらえたことで、心から納得した気がする。
コンサートはアンコールも含めてあっという間の3時間だった。会場のお客さんの満足そうな顔を見ながら待っている。
「いや、すごかったな」
杉野マネージャーがやや興奮した口調で言う。千奈津は頬を真っ赤に染めて「これから、COLORメンバーにあえるんだよね」と興奮していた。
ドクドクドク。
釣り合う二人じゃないのにどうしてドキドキするのだろう。
赤ちゃんのことを知った大くんは、どんな気持ちだったかな。今日は、はなのしおりを返してもらえるだろうか。
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