シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
「お待たせしました」
ぼんやりと考えていた頭に声が降ってくる。スタッフさんが迎えに来たようだ。


「では、ご案内いたします」
立ち上がって後ろを着いて行くと、たくさんのスタッフが慌ただしく動き回っていた。
一歩ずつ歩いて行くと、その中でも賑わっているお部屋がある。
「こちらに、いらっしゃいます。マネージャーを呼んできますのでお待ちください」
頭を下げて立ち去ったスタッフさんを見送ると、千奈津が肩をポンポンと叩いてくる。

「ヤバイ」
完全に仕事だってこと、忘れているみたいだ……。
「甘藤様お連れしました」
スタッフさんが言うと、池村マネージャーが軽く笑顔を向けて近づいてきた。
「お久しぶりです」

ご挨拶をしてくれる。杉野マネージャーと私と千奈津が頭を下げると、事務所の方が来て挨拶してくれた。
声が聞こえてピクッとなる。その声の方を見ると大くんがいた。

COLORのメンバーもいる。スタッフさんや来客に笑顔を向けながら話している大くん。
ライブを終えたばかりなのに、対応しなきゃいけないんだ。大変だな……。ついつい見てしまう。
仕事を忘れてしまっているのは私だ。

杉野マネージャーに名前を呼ばれて慌てて笑顔を作る。

「いい、コンサートだったよな? おい、初瀬」
「は、はい」
ビクッとして思わず大きめの声で返事をしてしまった。……視線を感じる。大くんがこっちを見た。
慌てて目線を下げる。
ドドドドドド……。心臓が痛いほど鳴っている。
近づいてくる足音。手の平は汗でびしょびしょだ。
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