シリーズ全UP済。果物のように甘いだけじゃない
「お久しぶりです。甘藤の皆さん来てくださったんですね」
さわやかな声が耳を撫でる。大くんのピッカピカの笑顔を間近に見て逃げ出したくなった。
杉野マネージャーが挨拶を終えると、千奈津も頭を下げる。

「その節はありがとうございました」
ビジネスの挨拶をした。


その間に、COLORのメンバーを池村マネージャーが連れて来てくれる。実家で昔に会った以来だ。二人は覚えているだろうか。
目が合うと二人は一瞬、顔を強張らせた。……きっと、気がつかれたんだ。
でも、さすがに二人ともプロで……すぐに笑顔を作って挨拶をしてくれた。
千奈津はCOLORメンバーを目の前にして興奮状態で顔を真っ赤にしている。


いくつか、輪ができ上がっていて話し声がざわざわとあちらこちらから聞こえる中、意識がぼんやりとしてくる。
「もう、すっごく素敵でした」
千奈津が言うと赤坂さんがにっこりと笑って対応してくれた。気を良くした千奈津はどんどん話しかける。
「杉野マネージャー? おお! お久しぶりですね」

男性が話しかけている。
偶然過去に仕事にお世話になった人らしく、話が盛り上がっている様子だ。


突き刺すような視線を感じ、その方向を見ると大くんと目が合った。その場から動けなくなったみたいに、私の体は硬直する。まるで金縛りのような感じだ。

ゆっくりと近づいてくる大くん。一体、何をしようとしているのかな。胸が締め付けられるように痛くなり、泣きそうになった瞬間――手首を掴まれて廊下へと連れて行かれた。

歩く速度が速くてあっという間に人が少ないところへ連れて行かれる。が、遠くからはスタッフ達の声が聞こえるほどの距離。
壁にドンと背中を押し付けられる。

「会いたかった」
声を震わせながら言われ、その声に胸がわしづかみにされたような衝撃が走った。
「美羽、疑ってごめんな。……子供のこと……。やっぱり、美羽は産もうとしてくれてたんだな」
「……玲から聞いたんだね」
「ああ。もっともっと美羽と色々話がしたい。今日は打ち上げがあって遅くなるかもしれないから、明日にでも電話をする。だから着信拒否、解除してくれないか?」
「でも、大くんと話をしたら……過去を思い出して気持ちが溢れてしまうかもしれない」
「それでいい。俺は美羽を」
紫藤さーん、と探している声が聞こえる。
私は咄嗟に隠れようとしたが、大くんは顔をぐっと近づけてきた。


「着信拒否解除してくれないなら、今ここでバラしちゃうよ? 俺らの過去を。たくさん、スタッフがいるしいい機会だし」

そんなの、いきなり過ぎて心の整理がつかない。本気で言っているのだろうか?
昔から大くんはちょっぴり意地悪で強引なことを言ってくることがあった。ぼんやりしている私にはそこが魅力的に感じる部分でもあるのだけど。

「さあ、どうする? あと数秒で見つかっちゃうよ?」
私の顎のラインを親指で優しく撫でて、艶やかな微笑みを向けてくる。それだけのことなのに、心臓が激しく乱れるのだ。


「美羽。過去を思い出して怖いのは同じだよ。でも、俺は美羽と色々と語りたいんだ」
真剣に言ってくれるその言葉が、胸にじんわりと広がっていく。過去に怯えていてはいけない。勇気を出さなければ、明るい未来はないのかもしれない。
「……解除する」
「わかった。約束だよ。もしかしたら今夜かけるかもしれない」
「…………」
「隠れて。俺が行ったら三十秒数えてここから戻って来て。いい?」
こくりと頷くと、壁の出っ張りに身を潜めた。
間もなくしてスタッフの足音が近づいてくる。
「いたいた。探しましたよ」
「悪い。ついつい迷ってしまって」
会話が聞こえなくなって三十秒数えた。そしてゆっくりと歩いて周りを確認すると、誰もいないことを確認して、元いた人が集まっている方へと戻った。
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