先日、芸能界を引退した推しが殺し屋になっていました
奇跡(きせき)side】

「おい!おい!!聞いてんのかよ!」

なんだか頬を染め、うっとりとしている女の頬を叩く。

「はっ、すみません!浸っておりました……!」

「何にだよ……」

ーーはい!僭越ながら推させて頂いております!

よりによって俺の殺し屋初業務のターゲットが俺のファンだなんて。

先日、殺し屋に憧れ、芸能界を引退した俺。

しばらくはかなりニュースでも取り上げられたが今ではすっかり猛暑の話に変わっている。

まだ残党がいたのか…。

眉間に皺を寄せ女を睨む。

参ったな…。

すると女が思い立ったように口を開いた。

「あっ、よかったら右ポケットに入ってる私のスマホ! ご覧下さい…!」

すっかりグチャグチャになった肩上までの栗色の髪を犬が嬉しい時にしっぽを振るのと同じように揺らした女。

「あ?これか?」

女の隣に腰掛け、言われた通りスカートのポケットに手を入れる。

中からはクリアケースに俺のブロマイドが挟まったスマホが出てきた。

「はい!きゃっ…推しにポケットをさばくられる日が来るなんて…っ」

「あっ、ロックはキセキ様の誕生日です! きゃっ…推しにスマホのパスワードお教えする日が来るなんて…っ」
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