先日、芸能界を引退した推しが殺し屋になっていました
初の依頼はこいつを殺すことだった。

なのに…、このザマ……。

晴れやかに殺し、華麗に初業務を終えたかったぜ……ったく。

「あっ、あの……」

「なんだ」

「元気そうで……、良かったです。嬉しいです」

ニコッ、とただ純粋に俺に微笑みかける女。

「あっそ」

女から目を逸らし、倉庫の灯りを付けた。

ここは俺の家の倉庫。

殺し、と言えば薄暗い倉庫がムードがあっていいな、と思い、ここに拘束していたが、流石にもう萎えた。

まぁそもそも、この拳銃おもちゃだしな。

実際は直前まで拳銃で脅し、殺す時はナイフで頸動脈を切ろうと思っていた。

プシュー!と勢いよく噴射する真っ赤な血。

以前ドラマ撮影で殺人鬼の役を演じたが恐らくその時に俺の中の秘めたる衝動にスイッチが入った。

それにしても…機械音痴の俺が、やっとの思いで殺しの依頼を引き受けるサイトを立ち上げたのに。

やっと依頼が入ったかと思ったら、この女の自作自演。

あぁ、ほんとうんざりだ。あ、てかよくよく考えたらこの女殺してたら報酬……!

貰えねぇとこだったじゃねぇか!

危うくただの殺し損になるところだったじゃねぇか!

…もう!!

殺しても一銭にもならねぇこんな女、さっさと解放して次の依頼を待とう。
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