先日、芸能界を引退した推しが殺し屋になっていました
そう思い女の拘束を解こうとしたその時だ。

ちょっと待てよ……?

殺し屋の基本。

顔を見られてはいけない。

見られたら……

​───────…即始末。

……やっぱ殺すか。

こんだけ顔見られてんじゃ、仕方ねぇ。

今回ばっかりは報酬はいいや。

悪く思うなよ。

今度こそ本当の本当に殺してやろう、とポケットに入れていた本命のナイフを取りだし女の首に当てる。しかしその時。

「……あっ、あの、」

「なんだ」

「大好きです。推しです」

そう言って、またふにゃっ、と微笑んだ女。

自分が置かれてる状況分かってんのか?

首にナイフ突きつけられてんだぞ?

しかも推しに。

「あっそ、今度こそ殺すからな」

「はいっ」

食らった清々しい返事に俺は困惑する。

「あのさ、推しが芸能界引退したから死にたいんじゃねぇの?推しが今まさにここにいるのにマジで死んじゃってもいい訳?」

なんか腑に落ちない。

ここに推しである俺がいるというのに、何故泣き叫ばない? 命乞いしない?
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