先日、芸能界を引退した推しが殺し屋になっていました
「え、と……控えめに言って推しに殺されるなら本望です……。それに、ヲタクはどんな時も推しを応援するものです。今私の推しは新たな夢に向かって生きているんだ、って分かったから……っ、だから…私は全力で応援するまでです…っ!」

なんだよ、こいつ。

「本当はペンラ(ペンライト)とか振って差し上げたいのですがあいにくそれは家で……」

なんか……

調子狂う。

「あぁ、もういいよ、解放してやるからさっさと家帰れ」

…ったく、酷い目にあったな。

「……」

女の後ろに回り込みきつく縛っておいた拘束を解く。

「…っ、え、殺さないんですか?」

「もう萎えた。ほら、帰れ。出口はあっち」

「はい……」

出口を指さし、とぼとぼと歩き出す女の背中を眺める。

すると、急に足を止めた女がくるり、と振り向き、縋るような目で俺を見つめた。

「実は私……帰る家…っ、ないん…です」

「は?嘘つくな。親いるだろ」

「両親はふたりとも、海外に出張で…1人暮らし、なんです…あっ、家も……あるにはあるのですが次、大家さんと顔合わせたら……立ち退きを迫られてしまう感じ、っていうか…」
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