先日、芸能界を引退した推しが殺し屋になっていました
「なんで立ち退きなんて迫られるんだよ」

「……」

しばしの沈黙の後、女は観念したように言った。

「少し前に発売されたキセキ様の写真集……、『君に出逢えた奇跡』の観賞用と保存用…。そして布教用の計1000冊購入したら、家賃が払えなくなってしまって……」

1000!?

あれ1万以上するぞ!?ってことは……

1000万の出費!?

「はぁ!?お前バカじゃねぇの!? てか、同担拒否なのに布教とかしてくれたんだ?」

「だって! もしここでヒットしたら、第2弾の写真集発売が決定するかも、って思って!!」

すげぇ…熱量だ………

でも、まぁ……それは、ありがとうだわ。

こいつのおかげで、かは知らんが、その写真集はちょいちょい重版して10000万部超えロングヒットとなった。

ちなみに来年第2弾の発売もすでに決定していた。

俺が芸能界引退していなければ、近日情報解禁されていたことだろう。

「それに!お店によって特典のポストカードの絵柄とかも違ってて、つい……、それにあの写真集はっ、キセキ様の軌跡がみっしりと詰め込まれた奇跡のような書物だから…っ」

うまいこと言いやがって…。

ヤベェ奴……。

「それにっ、こんなこと両親に言ったら、絶対絶対…怒られちゃいます……っ」

そりゃそうだろうよ……。


でも……………

そうか……。

そんなガチで推してくれてたんだな。俺のこと……

「スマホ代は?」

ちゃんと払えてんのかよ…

「あっ、それは家賃よりも優先して払ってるので大丈夫ですっ。推しの最新情報を手に入れる最良の手段ですから…っ。ファンクラブ通知が来た際は一分一秒を争います…!世界中の誰よりも早く目を通すのです!」
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