先日、芸能界を引退した推しが殺し屋になっていました
高々と手を掲げた女に、もう…呆れるしかなかった。

「優先順位おかしいだろ…」

「へへっ、散財しちゃいました…」

頭の後ろに手をやり、へへ、となんてことないみたいに笑う女の姿が視界を埋め尽くす。

その時。

ーードクン!

俺は何故だか心臓が大きく跳ねるような感覚に襲われ、後ずさりした。

は? 今俺の心臓、ドクン!とか言ったか?

は!?

「だ、だ、大丈夫ですか!? キセキ様!」

「大丈夫だ」

ーーぐぅ​───────…

「あ」

直後。響き渡った大きな空腹音に女が恥ずかしそうに頬を染めた。

もちろん女の腹の音だ。

よく見たらこの女、今にもポキッ、と折れるんじゃないかと心配になるくらい細い体つきをしている。

「はぁー……お前、ちゃんと食べてんのかよ」

「三度の飯より推し活の方が大切ですから。実はちょっと前まで痛バ(痛バッグ)作ろうと試みてまして……、でもキセキ様の缶バ(缶バッジ)、レート高いから…なかなか集められなくって……っ」

※【痛バ(痛バッグ)】
▶︎ 好きなアイドル、好きなキャラクターの缶バッジなどをたくさん飾り付けたバッグの事。

食べてねぇじゃん。

「はぁ……もう…ちょっと待ってろ」

「えっ?えっ?」とか言ってあたふたする女を置いて倉庫を出た。

***

「えっ、、これっ、私に?…いいんですか!?」
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