先日、芸能界を引退した推しが殺し屋になっていました
その時。

ペチペチと軽く頬を叩かれ、強く瞑っていた目元に力を抜く。

すると……顎先をグイッ、と掴まれて上を向かされた。

もちろん視界は真っ暗。

でも口は自由にしてくれるみたい。

彼は私の口を塞ぐガムテープをビリッ、と取った。

「一体何したんだ、てめぇは」

呆れたような声が落とされて、ビクッ、と肩が跳ねる。

「何も……してないです」

まだ殺さないんだ…。

ギリギリまで恐怖を煽って殺すタイプの人かな。

「何もしてない、なんてことはないはずだ。殺される依頼なんかそうそうされるもんじゃねぇ」

「…っ、」

その言葉を聞いた時、確信した。

やっぱりこの人……


殺し屋なんだ​───────。


意を決し、下唇を静かに噛んで答えた。

「…依頼、したの、……私です」

「は…?」

その途端。

「どういうことだよ」と戸惑った声で尋ねられた。

……そりゃそうだよね。

自分を殺せ、と殺し屋に依頼する奴なんか……滅多にいない。

世界中探しても私くらいかな。

成功報酬だからお金を払え、と催促される頃には私はこの世にいないし。
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