先日、芸能界を引退した推しが殺し屋になっていました
「だ、だ、だだって!急に名前呼びとか……!!なんですか、それ!ファンサエグ……!!! 私の心はズキュンバキュン……っ、いぇー、推しの世界は最 & 高、いぇー♪」

壊れたロボットのように急なラップをかました女はそれからムクっ、と立ち上がった。

「それで!? 続きをどうぞ!!」

「あ、あぁ…だからな?この世で生きる上で『衣』『食』『住』は確保しないと、ダメなんだぞ。推し活の優先順位はその次…、…って、おい!聞いてんのかよ!」

明後日の方向で俺の話を聞く女は、瞳をキラキラとさせて、まるで俺が神でもあるかのように手を合わせた。

「キセキ様……っ、またも私の心配を…」

あぁ、こりゃダメだ……。

「あ、そういえばお前!学校は?」

「あっ、あぁ、行ってますよ! 明日体育祭があるんです!」

「へー、何出んの?」

「リレーです! アンカー!」

「アンカー、ってお前……足速いのか?」

「めちゃくちゃ遅いです!」

「なんでアンカー任されてんだよ!」

「……へへっ、」

ーーブーブー……

そこで胸ポケットに入れていたスマホが鳴り、部屋の外に出た。

元マネージャーからだ。

「なんだ」

「奇跡……! はぁ、やっと出た。ねぇ、考え直して!? あなたまだこれからじゃない!?」

…またこの話かよ……。しつこいなー。

「俺はもう決めたんだよ」
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