先日、芸能界を引退した推しが殺し屋になっていました
芸能界にまた連れ戻そうとしてくる俺の元マネージャー。

芸能界引退から1週間が経った今でもこうして電話をかけてくる。

「そうは言っても! 来年大きな映画出演だって決まってたのよ!? 一体どうしちゃったのよ、奇跡のプロ意識は​────」

「あ、悪ぃ、ちょっと切る」

「え!? あっ、ちょっ​────」

強引に通話を切った後、おもむろに指が伸びたのは、アルバムだった。

アルバムには俺の写真がビッシリ詰まっていた。

ナルシストと思われても構わない。

でも……なかなか捨てられなかった。

芸能界を引退した今でも。

アルバムの中には去年の全国ツアーで撮られた1枚が一際目に付いた。

グループで活動している訳じゃないからその分色んな地方を1人で回るのは少し寂しい気もする。

でも事務所の社長とか、マネージャーとか、周りの人が支えてくれて完走しきることが出来たように思う。

……芸能界に未練がないと言えば嘘になる。

誰もが憧れるスーパースター。

中学の時からコツコツ経験を積んで、実践を積んでやっとステージに立たせてもらった。

本当は……

殺し屋になりたかった訳じゃない。

自分が大きくなっていく度、周りに寄せられる期待がどんどん膨らんでいる気がして怖かっただけだ。

だから……

​───────…逃げ出してしまった。

まぁ、前から殺し屋にちょっと憧れてた、ってのも本当だけどな。
< 38 / 59 >

この作品をシェア

pagetop