先日、芸能界を引退した推しが殺し屋になっていました
鼻の奥がツーン、と刺激され、目隠しの隙間から数滴の涙が落ちていく。

「まぁいい。せっかく上手いこと拉致ったから記念に殺すわ。ほら」

再び額に突きつけられたであろう拳銃。

今度はグリグリとさらに強く当てられた。

さっきと同じ要領でもう1度死を覚悟する。

でもいつまで経っても耳をつんざくであろう大きな銃声音は鼓膜に届かず、私の意識は綺麗過ぎるほどに保てたまま。

もう……早く殺してよ。

こういう時間がいちばん怖い。

と、思いながら鼻をすすった時。

「あ、なに? もしかして泣いてんの?」

面白がるような声でそう言って、かと思ったら今度はひどく同情した調子で言う。

「怖くて怖くて泣いちゃってんだよな。あぁ~、可哀想に。すぐ殺して楽にしてやるからな」

「んっ…」

叫ばせない為か、もう1度ガムテープが口に貼り付けられた。

「……」

それにしても…

……バカ、なのかな…、この人。

ふと思った。

依頼したの私だってさっき言ったのに…、まだ殺そうとしてくれてるっぽい。

だったら一体誰から報酬貰おうとしてるんだろう。

成功報酬でしょ?

死人に報酬は催促出来ないんだよ?

……まあいいか。

殺そうとしてくれてるんなら有難いもん。
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