君は優しい嘘つき
「何突っ立ってんの。こっち来たら?」
ぽんぽんと叩いたベンチの音に引かれるがまま、歩の隣に腰を下ろす。
ギィ…と不快な音を立てたベンチは、それでも壊れるようなことはなさそうだった。
「……」
「……」
澄んだ空気が痛いほどに、静かな夜だった。
隣を見れなくて真っ直ぐに前を見つめるけれど、そこに浮かぶのは闇だけで、私の知りたいものは何ひとつあるわけもなく。
なにしてるのと聞きたいのに。
それを聞けないのは、もし私が同じように聞かれたら何も答えることが出来ないからだ。
「親父にさぁ」
夜に溶け込むような呟きに思わず隣を見れば、そこには上を向いた歩がいて。
「親父にさ、閉め出されたんだわ」
動かない視線につられて空を見上げれば、月がちょうど雲に隠れようとしているところだった。