君は優しい嘘つき
「なんで……」
空気が緩んだせいで、つい言いかけたその口を慌てて閉ざす。
「なに?」
「いや、なんでもない」
咄嗟に歩から視線を逸らして上を向く。
いまだ月は雲に隠れたままだった。
「気になるじゃん」
「……」
「言いたくない?」
言いたくないんじゃない。
「……さっきから聞いてばっかで、嫌じゃない?」
自分のことは何も話してないのに、歩のことばかり聞いてしまう。気になってしまう。
きっと歩だって、何で私がここにいるか知りたいはずなのに。
「嫌じゃないよ。なに?」
優しい声にもう一度視線を戻してその黒い瞳を見つめる。
「なんで不良息子って言われたの?」
雲の隙間からわずかに漏れる月の光が、一瞬だけ見開いた歩の目をぼんやりと照らした。
そのすぐ後にぷっと吹き出して目を細めた歩の姿に、ざわりと心臓が波打つ。