君は優しい嘘つき
***


がちゃん!

何かが割れたような音がした。
それと同時に唸るような声も聞こえてくる。


何が割れて何に対する唸り声なのかなんてそんなことはいちいち考えない。

ただひっそりと部屋を出て足音を立てないように裏口から外へと出ていくのが、何もできない私の私なりの対処法だった。


暗い一本道を歩いて、寂れたベンチに座る。

この前よりも随分と暗いと感じるのは、きっと今日は月が出てないせいだろう。

スマートフォンを取り出して見る必要もないような情報をとりあえず頭に入れていく。

芸能人の恋愛だとか、よくわからない政治の話とか、とにかく何でもいい。何も考えたくなかった。


「よっ」


だから、急に背後から声をかけられて心臓が口から出そうなほどびっくりしてしまったのだ。


「っ!!!」


──カシャン。


人間驚きすぎると声も出ないらしく、バクバクと身体中に響く心臓の音と、手から滑り落ちたスマートフォンが叩きつけられた音だけが響いた。

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