君は優しい嘘つき

「あ、わり。驚かせた」

眉を下げてそう言った歩は、スマートフォンを拾い上げるとそれと反対の手を差し出してくる。


「ほら」

どうやら落ちたのはスマホだけではなかったらしく、地べたに座り込んだ私の手を引っ張ってベンチに乗せられる。


「はい、スマホ」
「…………」
「ごめん、そんな驚くとは思わなくて」


すーはーと深呼吸をして、未だに暴れる心臓を何とか鎮める。


「……大丈夫」
「ほんとに?」
「うん」

まだ少し声は震えていたけれど、恐怖から来るものではないとわかっているから、もう一度だけ深呼吸をして落ち着かせる。


「落ち着いた?」
「うん」
「よかった」

ごめんと再度謝った歩に、大丈夫と言って。

それでも何でここにいるのかわからないという顔をしていたのだろう。

「コンビニに行こうと思ってさ」

そう言った歩の手には、けれど何も握られていなかった。


「でもよく考えたら時間遅いし、補導されたら危ないと思って」

確かにさっき見たスマホではもうすでに23時を過ぎていたような気がする。

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