真名子さんの名(字)活

「こんにちわぁ」

ニコニコ外面笑顔100%で土門さんに話しかけてみる。

「あ、こんにちわ」

いい!挨拶返してくれた!いい!同僚のいつも煎餅食ってる工藤なんて挨拶しねぇ。「真名子リーダー、工藤さん絶対挨拶しないんですよ」って職員からのクレーム絶えないタイプじゃなくて良かった。挨拶返すの好感度高い!いい!

「何飲んでるんですか?」

「え?いや、え?きっと皆さん同じだと思いますが……」

はいやったぁ!真名子やったぁ!忘れてたぁ!ここ試食会!同じ、全員同じ!どこもかしこもグラスの中身皆同じ色。

「なーんて、ですよねぇ」

やっちゃった、てへぺろ♪みたいに可愛いく舌を出そうかと思ったけどとりあえず壁側にいた筈のホルモン旦那が、馬鹿か?追い出すぞ?みたいな顔で空になってるグラス回収しながらこっち見てやがるので、舌はくるりと伊達巻のようにしまう。

「え……と、し……なこさん?」

「はい?あ、まなこです」


はい!可愛いぃぃ!!顔も可愛いけど漢字読めなくて名前間違えるとか許す!!
ポイント!!ポイント加算して!

「失礼しました。真名子さんはお酒強いんですか?」

「私ですか?一滴も飲めません」



そう、私、酒飲めねぇ。体質なのか、アルコール度数3%の世に出回っている女子達が飲むチューハイ一口で全身蕁麻疹からの吐瀉物。
頭のてっぺんから足の爪先まで、アルコールを拒否している。口に含んで一瞬胃袋に到達したアルコールを、一本も入れさせない伝説のゴールキーパーみたいに絶壁のガードで、またフィールドに戻すんだ。

しかもその時、数時間前に食べたじゃかりこ付きで。
凄いとばっちり。胃液に浸かってゆっくりと小腸に向かう筈が、まさかのじゃかりこ突然の場外。

確か学生の時とか、親戚一同集まって私にジョークで飲んでみるか?なんて言われて私の両親「金太家はねぇ」なんて話して周りも、あぁそういえば……なんて言ってた事思い出した。
親戚一同お墨付きの下戸。
なんなら先祖代々下戸。金太家出身じゃない母も運命なのか下戸。

私、純血な下戸。

「え?じゃあ……何故?」

土門さんが何でおめぇ、ここにいるんだ?って顔してる。
どうやらこの酒の試食会、酒好きが集まる同好会らしく、その中でも婚活というかこの酒が好きな独身者同士楽しく飲みましょう、だったらしい。
これ、数時間後にホルモン旦那に怒られながら説明された。

「土門さんて彼女いるんですか?」

酒の話題を避ける為に出た言葉がこれ。直球よ、真名子、どストレートだわ真名子。


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