【短編】天然お嬢様は焦らされてる事に気づかない。
「はい。…あの、敬語に様付けはやめてください。そんな偉い人でもなんでもないので。」
槙野は居心地悪そうに頭をかきながらそう言う。……なんかもっと怖そうな人だとも思ってた。
「ふふっ。分かった。じゃあ改めてこれからよろしくね、槙野くん。」
そんな心の中は悟られないよう気を遣いつつ私は研究に研究を重ねた秘伝の笑顔で槙野くんに声をかけた。
「はい。こちらこそ。」
「じゃあ早速だけど手伝ってくれない?あとこれは何かわかるかしら?後これも……」
聞きたいことが多すぎて何から聞いたらいいか分からず、とにかくわからないところを言っていく。
………改めて本当に多いな。
「……一つずつ片付けていきましょう。」
槙野くんは苦笑いを浮かべ、そう言ってくれた。優しそうな人で良かった。
……初日早々忙しくて申し訳ない。
***
それからと言うもの槙野くんと一緒に私の机に溜まった書類を片っ端から片付けていった。
……すっごい長い戦いで、終わった頃にはもう、まだ高いところにあったはずの太陽が沈もうとしていた頃であった。
「……〜〜っ終わったー!!」
机の上にあんなにあった山をやっと終わらせられた。開放感がすごい。
「ふぅ。終わりましたね。」
「ありがとうっ!…ごめんね。わからないものが多くて沢山溜め込んじゃってて……。」
あの山には今日の分だけでなく、今までの分もいくつか混ざっていたのだ。それを全部1日で片付けられたのは本当に槙野くんのおかげだ。
「いや、これだけの量なら仕方ないとは思いますが…今日の分だけでも結構ありましたし。」
「だよね!?多すぎるよねー!……もうちょっと先生たちも仕事してよ…。生徒に任せてないでさー。」
仕事が終わって安心し、気が緩んだ私はつい素の自分で話してしまった。きっと槙野くんに安心できるような雰囲気というか、包容力?みたいなのがあるからだろう。