ハートからダブルハートに。

ハートからダブルハートに。

 ――私は、誰にも言えない恋の秘密がある。

 「美奈(みな)先輩、お疲れ様です。もうすぐ大学受験ですよね、頑張ってください」

 「お疲れ様。ありがとう、頑張るね」

 私はこの高校の生徒会長だ。今週大学受験があるし、もうすぐ辞めなければいけないのかなあ。思えば高校に入ってから、彼と出会ったんだっけ。

 そんなことを考えながら帰り道を歩いていた。

 「みーなっ、お疲れ」

 ……私は、隣に引っ越してきた年上の彼と付き合っている。

 「俺、美奈がいなくて本当に寂しかったんだけど。責任取ってくれる?」

 彼はニヤリとした笑顔で私を見た。こういうところがずるいな、と思う。

 「あら、美奈ちゃんと優太(ゆうた)くん? 二人、仲が良かったのねえ」

 と、近所の方がこっちを見て言った。でも私は心配がなかった。

 「佐々木さん。いつもお疲れ様です。美奈さんは引っ越してきた僕に、この町のことを色々教えてくれて。優しくて素敵なお嬢さんですよね」

 ……と、優太が言った。そう、優太は人の前では優しくて礼儀正しいけれど、私の前だとクールでダークな甘々男子になる。

 「…… “僕” なんか言っちゃって。本当に別人じゃん」

 「俺はこの関係をバラしてもいいんだけど?」

 「……それは勘弁」

 私は、この秘密をバラされたくなかった。高校3年生の女子、しかも生徒会長が21歳の男性と交際している、なんて教師に伝わったら、大学受験に影響が出ると考えたからだ。

 そして突然、優太が私のことを抱きしめた。

 「…っ」

 「これで今日は我慢してあげる。美奈、大好き」

 優太の心臓の音が伝わる。私、いつも以上にドキドキしている、かも……。

 家に入ってからも、私はずっと抱きしめられたことが頭に残っていた。


 告白は、優太の方からだった。引っ越してきてから1ヶ月後、「好きです。僕で良ければ付き合ってください」と伝えてくれた。私は普段、優太が優しくて素敵な方だと知っていたから、断らなかった。

 その翌日から、優太の様子が変わった。美奈、と急に呼んだり、自分のことを俺と言ったり。本当は、クールでダークな甘々男子だった。

 けれど私は、何故か優太との関係を終わらせたくなかった。この日常が、優太がいなくなると考えたら、胸が張り裂けそうになった。

 「美奈、おはよっ」

 「優太、おはよ。今日はいつもより早いね」

 いつも通り、支度をして玄関を出ると、優太が待っていた。

 「ん、美奈と早く会いたくて。大学頑張れるから」

 私は、いつの間にか優太の腕の中にいた。この温もりを永遠に感じていたい、と思った。

 「……美奈、大学受験いつだっけ?」

 「明後日だよ」

 「……分かった!」

 優太はニッ、と笑った。なんだかこの顔、嫌な予感がするんだけれど……。


 大学受験当日。私は将来、看護師になりたいと思っていた。そのために大学で看護のことを学びたい。今まで努力してきた分、精一杯頑張ろう……。

 「美奈、今日受験でしょ?」

 「……うん」

 「頑張ってねん」

 この前と同様、ニッと笑った。本当に何を考えているの……?
 私は疑問に思いながらも試験会場に向かい、面接を受けた。

 「相楽(さがら)美奈さん」

 名前を呼ばれ、私は席を立った。緊張するけれど、質問されたことに対して素直に答えていった。

 「ありがとうございました」

 そして面接が終わり、優太に電話をかけた。

 「もしもし、優太」

 『美奈、お疲れ様。俺寂しくて待ちくたびれるんだけど』

 私はふっ、と笑ってしまった。

 『何、俺を馬鹿にしたの?』

 「ううん、優太が可愛くて」

 『……美奈のほうが何倍も可愛いし』

 優太のその一言で、私は飛び跳ねそうになるくらい嬉しかった。早く帰って、優太に会いたい。

 一人で家に帰った。いつも通り、優太が家の外で待っていた。

 「みーな!まじで寂しかったんだけど」

 「ごめんごめん。温かいコーヒーでも飲む?今日は親いないし」

 「……ん」

 私は、優太を家に招き入れた。丁度親がいないし、二人でゆっくり話せるかな、と思ったから。

 「ブラックでいい?それしか無くて」

 「……美奈さあ、気をつけろよ」

 「え、何が?お湯淹れるとき火傷しないように気をつけてるけど」

 と、答えた。いきなり心配しちゃって、どうしたんだろう……?

 「そうじゃなくて……!俺、一応男なんだけど」

 そう言われて私は持っているカップを落としてしまった。
 そ、そっか。男女で二人きり……。

 「美奈が学生じゃなかったら、どうなるか分かってた?」

 「……分かってませんでした」

 その先のことを想像したら、耐えられない。私きっと、今顔が真っ赤だ……!

 「あーもう、その顔! 可愛すぎて、我慢できなくなるからやめて」

 と、優太は手で顔を隠した。

 ……っ、優太も可愛すぎるよ……!

 「は、はい。コーヒー、です……」

 「……ん、ありがと」 

 きゃあ、何この雰囲気……。

 頑張ってみようかな……!

 「ゆ、優太っ」

 私は優太に抱きついた。

 「……大好き」

 「……俺もう、無理」

 へっ……!?

 私は、ベッドで押し倒されてしまった。

 「な、何……?」

 「美奈、本当に可愛すぎ」

 どうしよう……と思っていたその時、お母さんが帰ってきた。

 「ただいま、美奈! ごめんね、仕事遅くなっちゃって。面接どうだった? って、あら」

 「ああ相楽さん。お邪魔しております。原田(はらだ)と申します」

 優太はささっ、と立ってお母さんに挨拶した。やっぱり私と二人きりのときと差が凄いなあ。

 「あら、隣に引っ越してきた! 原田くんどうしたの?」

「コーヒーを淹れてくれたんです。いきなり家にお邪魔してしまい本当にすみません。もう帰るので」

 と言って、優太は帰る準備をしている。

 ……寂しいな。

 「じゃあな、美奈。続きはまた今度」

 ……っ!?

 そんなこと言われちゃったら、ドキドキしちゃうよ……!

 

 今日は、大学の合否が出る。朝、優太と目が合う度に目を逸らしてしまった。なんだか、この前のことを思い出して……顔が熱くなっちゃう……!

 「美奈、おはよ。ついに今日か、楽しみにしてて」

 「えっ? 何かあるの?」

 「まあまあ、いずれ分かる」

 私は疑問に思いながらも、学校へ足を運んだ。今日は体育館で集会がある。まさか来るのかな、とも思った。流石にそれは無いよね……?

 「そして次に。今日は特別に、話してもらいたい人がいる」

 と、校長の話が終わった途端。私は嫌な予感がした。

 「原田優太」

 「はい」

 ……嘘。優太? なんで、優太がここにいるの?

 「実は優太さんは、ここの学校の卒業生なんだ。今日は特別に、皆に話をしたいらしい」

 ……え、優太がこの学校の卒業生? 今までそんなこと教えてくれなかった……!

 「皆さん初めまして、原田優太です。久しぶりに母校へ来れて嬉しく思います。今日は発表したいことがあってここへ来ました」

 私は気持ちがモヤモヤするも、その発表したいことが気になった。

 「3年4組の相楽美奈さんとお付き合いさせていただいています」

 は……!?

 へっ、え、なんで……!?

 私は疑問と、どうしようという不安が一気に溢れ出てきた。

 わわわ……教師にも生徒にもバレてしまった。これじゃ私、大学落ちてしまうのではないだろうか……。

 「美奈さんは、優しくて、生徒会長として生徒会を一生懸命頑張っていて、本当に素敵な子です」

 ……っ! 恥ずかしすぎる……!
 全員の視線が、私に向けられている気がするんだけど……。

 「美奈、大学合格おめでとう」

 一瞬、私の頭の中が真っ白になった。なんで、どういうこと……?

 「さっき、合格発表急いで見てきた。美奈、合格してたよ。おめでとう」

 その瞬間、盛大な拍手が贈られた。

 「相楽さんおめでとう!」

 「美奈先輩おめでとうございます!」

 「実は、少し前から考えていた全校生徒のサプライズなの」

 ……え、サプライズ?
 私の頭は混乱していた。

 「生徒会長、いつも頑張っているそうだし。俺達で考えて、思いついたんだ。美奈が大学合格したら、サプライズしようって」

 私は、驚きと嬉しさで涙が溢れ出てきた。こんな全校生徒からのサプライズなんて、嬉しくないわけないじゃん……!


 学校が終わって、早足で家へ帰った。優太に早くお礼を言いたかったから。

 「優太っ!」

 「美奈、お帰り」

 私は優太に抱きついた。

 「優太、優太ありがとう。本当に嬉しい。頑張って良かった……っ」

 一瞬、唇と唇が触れ合った感覚がした。

 「……んっ」

 「……美奈、可愛すぎるから」

 え、ここここれって、キス……?

 「何その反応、可愛すぎ。俺、家だったらこの先も我慢してなかったかも」

 私は動揺していた。優太と初めて、キスしちゃった……。

 「キスって、レモンの味するんじゃなかったっけ……?」

 「ふっ、何それ。そんなはずねえじゃん。はあ、美奈本当に可愛い」

 そう言うと、優太は私の頭を撫でた。なんだか、子供扱いされてる気がするんだけれど。

 「……美奈が大学に入ったら、そういうことしちゃうかもよ」

 「ば、馬鹿……っ!」

 きっと、私なら許しちゃうかも。

 これからもきっと、クールでダークな甘々男子に色々なことをされるんだろうな、と思った。

 私達の恋は、永遠に続く。
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