ロゼリア

お父様との約束

それから、二ヶ月後。

私は入学前の準備の為に帝都にある公爵邸へ訪れていた。

「ロゼリア、久しぶりだね。元気にしていたかい?」

馬車を降りると出迎えてくれたお父様が優しく私を抱きしめてくれた。

「お久しぶりです、お父様」

お父様の後ろには、忙しいであろうお兄様二人の姿があった。

「あら、お兄様方も出迎えに来てくれたのですか?」

「久しぶり可愛い妹が帰ってくるというからね。今日は仕事を休みにしたんだ」

六つ歳の離れたレオンお兄様は皇宮で皇太子補佐官をしており、次男のアレンお兄様は皇宮の騎士団に所属している。

多忙のはずのお兄様方がこの場所にいるのは、とても珍しい。

「久しぶりに会えたかと思えば次の日にはもう学園か。もう少し長くいてくれないと、レオンのロゼリア話が激しくなるんだよ」

「それはどういう意味ですか?アレンお兄様」

それにロゼリア話って…。

「皇宮で顔を合わせる度にお前の事を話してくるんだ。軽く三十分ぐらいは続くな」

「さ、三十分!?レオンお兄様、何をそんなに話す事があるのですか!それにお仕事は!?」

皇太子補佐官であるレオンお兄様が三十分もその場を離れて大丈夫なのかしらと不安に思っていると、レオンお兄様は少しムッとした表情をした。

「何を言うんだい。本当は一時間ぐらいは語りたいところなのに、途中でアレンが居なくなるんだよ。もちろん仕事の休憩時間を見計らって話にいくから心配いらないよ」

「なっ、レオンお前…偶然かと思えばわざと話に来ていたな!?こっちは休憩中じゃねーんだよ!」

レオンお兄様は優しくてその上賢いのに、私の事となると何故か急に馬鹿になってしまう。

「続きは中でゆっくり話そう。ロゼリアの為に美味しいスイーツも用意してある」

これ以上は話が長くなると思ったのか、お父様の言葉で私達はサロンへと移動した。

サロンに到着すると机の上には既に沢山のスイーツが並んでいて、注がれた紅茶からは良い香りが漂ってくる。

苺のショートケーキに苺のタルト、苺のムース。

用意されたスイーツは、どれも私の好きなものばかりだ。

「それにしても、全寮制とは言え美しいロゼリアを学園に通わせるのは心配だ。護衛騎士を同行させるのはどうだろうか?」

全員のティーカップに紅茶が注がれた所で、レオンお兄様は深刻そうに話を切り出した。

あまり気にしないようにしていたけど…レオンお兄様の妹馬鹿はかなり深刻のようだ。

「卒業生であるお兄様はご存知のはずでしょう?同行を許されてるのは一人だけ。私はメイを連れて行くつもりです」

学園では特に武器を持った騎士の同行が禁止となっている。

恐らく殺傷などの事件を起こさない為にそうしているのだろう。

「それに私に近寄ってくる方がいるとすれば、身分や権力に魅了された方ぐらいですよ」

社交界には美しい女性が沢山いる。

そんな中で私を選ぶとは思えないし、公爵令嬢という地位に魅了されて近づいてくる人達を幼い頃から何度も見てきた。

それなのに、

「ロゼリアは無自覚だから心配なんだよ…」

レオンお兄様は何かを心配しているようだ。
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