婚約者の浮気相手は母でした。
 私は、まずお父様に事実を伝えることにした。
 婚約を決めたのは、お父様である。故にリビルト様が浮気しているという事実は、すぐに知らせるべきものだった。
 それに彼の浮気相手は、私の母――つまりはお父様にとって妻である。そのため、どちらの意味でもお父様に伝える必要があったのだ。

「……趣味の悪い冗談だと思いたい所だな。もちろん、お前がそんなことをする訳がないということはわかっているが、それでも私はそれらの事実を信じたくない」

 端的に状況を説明した私に対して、お父様はそのような言葉を返してきた。
 当然のことかもしれないが、その顔は暗い。長年連れ添った妻に裏切られたという事実は、やはり衝撃的なものだったらしい。

「……僕も信じたくはないね。姉さん、本当にリビルト様が母様と?」
「私だって信じたくはないわ。でも、事実なのよ。私はこの目で確かに二人を見た。悪い夢なら覚めて欲しいわ」

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