婚約者の浮気相手は母でした。
 偶然この場に居合わせた弟のイルルドも、お母様の浮気が信じられないようだ。
 彼は亡き叔父様の息子で、お母様とは血が繋がっていない。しかしそれでも、二人は実の親子のように過ごしてきた。
 やはりそんな彼にとっても、今回の件は衝撃的だったようだ。

「……今思えば、兆候がないという訳でもなかったかもしれない。あくまでアルメアの話を聞いたからそう思えるだけなのかもしれないが、彼女の意識は確かに外部に向いていた」
「まさか、あの母様が浮気するなんて……」
「受け入れたくはないが、受け入れなければならないのだろうな。この事実を……そして、対処をしなければならないということか」

 項垂れていたお父様は、ゆっくりと姿勢を正した。
 残酷な現実ではあるが、向き合う覚悟を決めたようである。
 お父様がお母様を許すかどうかは、わからない。それは二人の問題だ。

< 5 / 116 >

この作品をシェア

pagetop