手の届かない、桜の木の下の君へ
5
それから私たちはよく会うようになった。
いつも会うのはそうくんの部屋で、
病気のことや、私の知らない広い外の世界のこと
好きなものや、嫌いなもの、本当にたくさんの話をした。
「私はさー、心臓があんまり元気じゃないんだよね」
「そうなんだ」
「心臓の筋肉が薄いらしくて、
人並みの血液を全身に送れない病気」
「僕も心臓が」
「そうくんも?」
「うん、僕は人より少し心臓が小さい」
「そっかー。心臓が悪いってさ、結構たいへんだと思わない?」
「みんなもちろん大変だけど
小さいときから特別、慎重に生きてきたよね」
「だねー、小さい頃からあんまり思いっきり遊んだ記憶がない」
「僕も、」
「みんなで遊んでてもなんとなく入りきれなくて
一人でいた気がする」
「・・・」
「そうくん?」
「ごめんごめん、ちょっと昔のこと思い出してた
おれもあんまり友達居なかったなーと思って」
そしてそうくんは本当に私の心を読んでいるようだった
「はい、これどうぞ」
そういって差し出されたのは、いちごミルク。
私が大好きでよく飲んでいるものだった
「どうしたの?これ」
「病院の中を探検してて、ふと目についたんだ」
「また当てられちゃってる。笑
これ好きなんだよね」
「また当てちゃった。笑」