手の届かない、桜の木の下の君へ



それから私たちはよく会うようになった。

いつも会うのはそうくんの部屋で、

病気のことや、私の知らない広い外の世界のこと

好きなものや、嫌いなもの、本当にたくさんの話をした。



「私はさー、心臓があんまり元気じゃないんだよね」

「そうなんだ」

「心臓の筋肉が薄いらしくて、
 人並みの血液を全身に送れない病気」

「僕も心臓が」

「そうくんも?」

「うん、僕は人より少し心臓が小さい」

「そっかー。心臓が悪いってさ、結構たいへんだと思わない?」

「みんなもちろん大変だけど
 小さいときから特別、慎重に生きてきたよね」

「だねー、小さい頃からあんまり思いっきり遊んだ記憶がない」

「僕も、」

「みんなで遊んでてもなんとなく入りきれなくて
 一人でいた気がする」

「・・・」

「そうくん?」

「ごめんごめん、ちょっと昔のこと思い出してた
 おれもあんまり友達居なかったなーと思って」



そしてそうくんは本当に私の心を読んでいるようだった



「はい、これどうぞ」



そういって差し出されたのは、いちごミルク。

私が大好きでよく飲んでいるものだった



「どうしたの?これ」

「病院の中を探検してて、ふと目についたんだ」

「また当てられちゃってる。笑
 これ好きなんだよね」

「また当てちゃった。笑」

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