手の届かない、桜の木の下の君へ
12



5年間過ごしたすっかり私色の部屋に一礼して、
大きめのボストンバッグを手に部屋を出る

すぐ近くにある、10年間を過ごした大部屋の中を一周して、また一礼

何度も何度も顔を出したナースステーションをちらっと覗くと
たくさんの看護師さんが出てきてくれる

「ことりちゃん、今日だねー」

「うん、楽しみだけど寂しいー」

「いつでも戻って来たら良いんだからね」

「ありがと」

「家までは?」

「みどり先生が送ってくれるって」

「そっか」

「「ことねぇー!!」」

「わっ、」

大きな声で呼ばれた方を振り向くと居たのは、学級の子たち
折り紙で作った冠や首飾り、花束を作ってくれていた

「いつのまに!ありがとう」

「ほんとにいっちゃうのー?」

「そうだよ、でもまた遊びにくるからね?」

「さーみーしーい」

「ことねぇも寂しいよー、」

「おーい、ことね。そろそろ行くぞ」

「はーい!
 じゃあ、いってきます」

「「「いってらっしゃい」」」
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